遊戯語り

□ノイズキャンセラ
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放棄し倒した午後が黄昏に変わるあたり、そろそろほとぼりも冷めたかと戻った教室で、たった1人眠る影があった。


窓の桟に腰かけて、縦枠に背中を預けて。


耳からコードを伸ばして無表情に眠っているそいつは、隣の席の。


「…………」


こいつは何をやっているんだと一瞥、自席に戻って帰り支度を整える。





――――漏れ聴こえる音楽に、気を引かれてしまったのはきっと黄昏時のおかしな精神状態のせいで。





一歩踏み出す足下で鳴る桐の歯の音に、柄にもなくびくりとして。


窓際に辿り着いた時には耳元で何かが煩く鳴り響いていた。


「ち」


鬱陶しい事この上ない。これが何かは知らないがもしこいつに聞こえたら起きてしまうではないか。変態扱いされるのは心底御免である。


それでも何故か止めておく気にはなれず、手を伸ばしてゆっくりコードを引く。コードは、左耳のカナルホンに繋がっていた。


眠る奴の隣、窓の桟にギリギリまで離れて座りイヤホンを左耳に押し込む。





(遠回りしても、手に入れたい恋がある)





甘い女声の、跳ねるリズムと強気な歌詞。あまり好きではない類の音楽に、眉間に圧力を感じる。なのに、切り上げる事ができない。





(いつも側で見守ってるから、安心していいよ)





だから、




『私と付き合うのはどう?』





隣から、囁くように口ずさむ声が聴こえて。


全ての喧騒(それはあれほど煩かったあの音も)が静まった気がした。





(関わろうとしてくれて嬉しいよ、中島)



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