NovEl

□桜の花とあの日の記憶【後半】
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8年前の春。
オディールがアンダに拾われて3年が経った頃。
最初はほとんど何も話さず、ただ生気のない目をしていたオディールだったが、この頃になると、少しずつアンダを受け入れはじめていた。

そんなある日。

アンダは修行帰りにオディールをある場所に連れて行った。
そこでオディールが見たのは、一面薄ピンク色の花をつけた大きな木だった。
アンダはオディールの横に立ち、優しい口調で言った。

『私の一番好きな花、桜っていうの。』
『…』

オディールは黙ってその大きな木を見上げた。
雄大な木の枝に小さな花がところどころに咲き、風にのって花びらが舞う姿は、なんとも美しいものだった。

『師匠』
『なぁに?』
『…どうして…この花が…?』
『……うーんそうね…』

アンダはゆっくりと目線をオディールから桜の木へと移した。

『これはあくまでも私の考えなんだけど…桜って、私達人間のお手本になってくれる花なんじゃないかなって思うの。』
『手本…?』
『えぇ。桜ってね、咲いたらすぐに散ってしまうのよ。今見てるこの木だって、3日もすればもう枯れてしまうわ…』
『…短命なんですね…』
『難しい言葉を知ってるのね。』

アンダがクスクスと笑いながらオディールの横にしゃがむ。

『そう。短命なんだけど、その一瞬の命が宿った時は、こんなにも素晴らしい花を咲かせるのよ。そして枯れてから次の春が来るまで、1年間もかけて次の花の咲く準備をするの。冬だって、その寒さがあるからこそ、桜はこんなに立派に花を咲かせることが出来るのよ。』
『…』
『つまりね、どんなに厳しい寒さだって耐え抜いて乗り越えれば、きっとその分立派な花を咲かせられるの。人も同じ。どんなに辛いことがあっても、努力して、努力して乗り越えれば必ず明るい未来は来てくれる。そのぶん必ず幸せになれるのよ。』
『…』
『だから私は…この世界を守り続けたい。そうすれば、いつか平和な世界がやってくる。みんなが幸せになれる世界が…。私はそう信じているの…。』

その時オディールは、アンダから目を離せずにいた。見ず知らずの自分を救い、育ててくれたアンダ。
今、桜の木を見上げて話す彼女の目に移っているのは、一点の曇りもない決意と揺るぎない覚悟。
オディールはいつか自分もそうなりたいと思った。


『あなただって同じよ。』

アンダがオディールの手をそっと手にとって微笑む。

『師匠…?』
『どんなに辛くたって、どんなに悲しくたって、必ず幸せは来るわ。まだあなたはできたての小さな蕾かもしれないけれど、きっといつか立派な美しい花を咲かせられる。』
『…』
『だから大丈夫よ。』

更に微笑むアンダから顔をそらし、オディールは呟くように言った。

『…師匠の…花は…咲きましたか…?』
『…まだよ。私もきっとあなたと同じ蕾ね。だから、一緒に頑張りましょう』

その時、オディールの肩に1枚の桜の花びらが舞い降りた。アンダはそれをそっと手にとり、オディールに見せてこう言った。

『ほら、幸せが降ってきた。』

オディールはその笑顔を見て、心からアンダ=シェリエルという存在の偉大さを感じたのだ。
この人にならついていける。
どこまでもついていこうと…。
そう、誓ったのだった。

『師匠…』
『ん?』
『桜…私も好きです』
『そう?よかった。』

2人は少しずつ花びらを散らす1本の桜の木から離れることなく、ずっとそれを見上げていた。


『というわけよっ』
『手本ねー確かになぁー』

コイルが桜を見上げて言う。

『まぁその後すぐにあんな事件があったからあの子はあんな性格になってしまったけどね…』
『でも、師匠が桜をお好きな気持ち、わかった気がします。』
『そうね。…だから、オディールにとって桜は特別なのよ』
『ふーん…この花がね…』
『ローネ、お前も好きになったか桜っ』
『俺は花には興味ねぇな。けど、なんとなく桜は嫌いじゃねぇ気がする。』
『よし、じゃぁオディール探しに行こっか!』
『あっ僕が行きますよ!』
『本当ー?じゃぁお願いね。』
『はいっ』

リオンがさっきオディールが歩いていった方に向かって走っていった。



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