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□桜の花とあの日の記憶【前半】
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『うっひょ〜!すっげ〜なぁ!!』

まるで子供のようにコイルが叫ぶ。

『本当…きれいね…』

キャロルもうっとりとした顔で呟いた。

夢の花公園。
ここは3月末になると人であふれかえる。その目当てはもちろんこの美しく、どこか雄大で可憐さを秘めた日本の象徴、桜だ。
ソメイヨシノをはじめ、山桜、しだれ桜、八重桜、彼岸桜、など種類も豊富だがまず驚かされるのは、この見渡す限り一面生えている圧倒的な木の本数。

『すっげ〜な何本あんだ!?』
『確か…500本と聞いたことがありますよ。』

先走っていたコイルにリオンやオディール達が追いつく。

『500!?』

ローネとコイルが声をあわせて叫んだ。

『そんなにあんのかよ…どこで食うか迷うな…』

ローネが持っていたいかにも重そうな弁当をダラリと下げる。
現在キャロル、コイル、ローネ、リオン、オディールの5人は、花見という名の研修…まあ言わばさぼっているのだが…
とにかく花見(さぼり)に来ている。
先週、桜開花予想日が発表され、キャロルが真っ先に花見の計画を立てたのだが、あいにく全員任務が入ってしまった。
だが、たまにはいいだろうと、コイルの説得で、全員がさぼることになったのだ。

『ねぇオディールっせっかく来たんだからもっと笑ったら?』

キャロルがオディールの頬を掴んで口角をあげさせた。

『こんな状況で笑えるか』

だがオディールはあっさりとその手を払い、後ろを振り返った。全員とは言ったが、やはりこの人はそうではないようだ。

『いつ見つかるか…』
『気にすんなって!!ヴィズにはよろしく言っとけってクリスに言っといたからよっ!』

※ヴィズとは、今回の任務の取締役で、クリスはヴィズの(一応)弟である。

『あんま解決になってなくね…』

明るい口調で話すコイルに、ローネがため息をつきながら言った。

『大丈夫大丈夫!ヴィズはクリスに泣かれると弱いからなっ!』
『…はぁ』

ため息をつくオディールの肩に桜の花びらが一枚舞い降りた。それを見ていたキャロルは、ふと昔のことを思い出す。

『…でも…結局来たのは、やっぱり桜だったからでしょ?』
『…』

オディールが黙って花びらを手にとり、それをじっと見つめた。

『あっ!ここにしよーぜっ』

コイルが周りと比べると随分と背の低い木の前に立って指をさす。

『ここなら桜も短かに感じるぜっ!ほら、座っても触れるっ!オディールにピッタリだろっ!』
『余計なお世話だ』
『素敵ね。うん、ここにしましょっ!』


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