NovEl

□V
1ページ/1ページ

オディールは部屋の奥にあるベッドに座った。
この部屋は実はオディールの部屋ではない。
部屋を見回すと、極わずかにオディールの服などもあるが、ここはリオンの部屋だ。
オディールはマンションの一件を借りているが、(向こうの現実の世界にも一件借りているが)、自分はホテルを転々とした生活をしている。
この家も向こうの家も2LDK。つまり(リビングなどを除いて)合計4つの部屋があるのだが、向こうとこっちのそれぞれ1部屋ずつをリオンに、そしてあとの2部屋は移動用に使っている。
移動というのはもちろん、向こうの現実の世界とこちらの世界の空間転移のこと。
部屋にある大きな窓が、向こうとこちらを繋ぐ扉となっているのだ。

向こうやこっちなどとややこしい言い方をしたが、ようするに、現実の世界とこちらの世界に1つずつ家を持っており、基本的には(学校があるので)現実のほうにいるが、任務があったり何も現実のほうに用がない時は、こうしてこちらの世界に来ているのだ。
そして週末になると、いつもこうしてホテルを出て、家に戻ってきてはリオンの部屋を占領し…寝ている。時々学校のあった日も家に帰ることもあったが、それはほとんど着替えなどを取りに来るだけだった。

『お金出してホテル泊まらなくても、普通にここで暮らせばいいじゃなぃですか…』
ずいぶん前にリオンに言われた言葉だ。オディールはその時、『そうだな』と賛成したのだが、実際、今もホテル生活は変わっていない。

階段を降りていく音がした。
きっとあきらめたのだろうと思い、ベッドの横にある窓を開ける。
バササっ
鳥が枝から飛び立つのが見えた。
『よぉッ』
次の瞬間、オディールは空中に浮くほど飛び上がって固まってしまった。
『今日は早いんだなぁお前ッ』
『コイル…』
満面の笑みで窓枠に頬杖をついているのは“テオ=コイル”オディールやリオンと同じ(赤のカラーズバトルをもつ)戦士の1人。
昔から恐れられていた…というより、どこか皆から避けられるような雰囲気だったオディールに、コイルだけは会うたび話しかけたり、ちょっかいをだしたりしていた。
最初は本気で殺してやりたいと思っていたオディールも、今は少しだがコイルに心を許している。
自分と正反対な性格がかえって合うのか、それともリオンと仲がいいからか。コイル本人は「2人の兄貴」などと言ってはいるが、リオンはまだしもオディールは完全否定。
…いやむしろ存在を無視していると言った方が正しいか…。
『何で断んだょッ!いいじゃねぇかたまにはッ』
『何の話しだ。そしてその前に貴様はどこから湧いてでた』
『湧いてでたなんて失礼だなッこうしてわざわざ木を登ってお前の顔を』
『見に来なくて結構だ。さっさと降りろ』
オディールに言われ、仕方なくコイルは『はぁ…ったく冷たいよなぁオディールは…』
とぶつぶつ言いながら木の下ではなく、身を縮めて窓からオディールのいる部屋に入ってきたのだ。
『バカかこっちじゃないッそっちだ』
と、その時。
コイルが窓枠にかけていた足をすべらし、ベッドを超えて、真っ正面から意味のわからない声とともに床に激突した。
『おー〜いてぇぇッ!』
顔を覆いながら絶叫するコイルを、オディールはうるさそうに耳を塞いで見下ろした。
『報いだな』
『なんのだょッ』
鼻を押さえながらコイルは顔を上げた。
『…まさか…お前に見下ろされる日が来るとは…』
そのたった一言の呟きが命取りになった。ボゴッという激しい音が部屋中に響き、やがてそれが家を揺らす振動へと変わった。
『お゛ぉお゛おぉ』
コイルはさらに顔を押さえてしゃがみ込む。オディールは手をパンパンと払って窓を全開にした。
『さぁ出ていけ私は忙しいんだ』
オディールがそう言い終わった瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。
『何かあったんですか師匠ッ!?』
リオンが鉄のバットを持って部屋に入ってきたのだ。
『コ…コイル様…』
『ョほ…無事かりほン?』
『いゃ、あなたが大丈夫ですかっ!…てかコイル様何やらかしたんですか?』
リオンがコイルの隣にしゃがんで小声で言う。
『ほぉちょうどいいリオンそれを貸せ』
返事も聞かずにオディールはリオンから鉄のバットを取りあげると、コイルの前につきつけた。
『ぁの…オディール…さん…?』
コイルが汗だくになってオディールの顔を見上げる。
『どうされたい?』
殺される。コイルは確信し、リオンの後ろに隠れた。
『ちょッちょっとコイル様!本当何したんですかッ!?』
『違うって俺何もしてないって!ただオディールのやつの寝込みを驚かしてやろうと、わざわざ木に登ってだなぁッぁとは…オディールに見下ろされる日が来るとはっつっただけだ…っ』
勇気のある人だな。コイルがオディールにちょっかいをだす度にそう思っていた。
オディールはちょっかいをだされても、普通は相手にしないのだが、機嫌が悪い時などは言葉によっては恐ろしいことになる…。それもコイルは分かってやっているのだから、ますますすごいと思う。『師匠…まぁ落ちついて…下さい…ねッ…』
リオンが冷や汗をかきながら言うと、オディールは舌打ちをして2人に背を向け、部屋から出て行った。2人ともほっと胸をなで下ろした。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ