えるりっく君ち

□さくら さくら
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『さくらさくら』

3月。

この数日のぽかぽか天気でエルリック家の庭の桜の木も蕾を一層膨らませている。

アルフォンスは窓辺で桜の木を眺めている。

「何ぼーっとしてんだ?」

エドワードがそばを通り掛かり、声をかける。

「うん。桜が咲きそうだなって。」
「桜か…。去年のアルの入学式の時はまだ桜あったか?」
「ううん。もう散り際だった。花吹雪だったな。卒業式はまだだったんだけど。」
「そうかアル、去年はまだ中学生か。無駄にでかいから忘れるな。」
「無駄にでかいは余計だよ。」
「オレの時は入学式の時は桜満開だったぞ。」
「雨だったけどね。」
「…そうだけど。」

「もうすぐ兄さんは3年生か。受験生だね。」
「まぁあんまり関係ないけどな。」
「関係なくないよ。いくら兄さんの成績がよくたって…」
「あ〜あ。オレ浪人しようかなぁ。」
「なんで?」
「ん〜なんとなく。」
「またまた。困難、逆境、なんでも来いな人が何言ってんのさ。」
「ん〜。そんなオレでもわかんねぇこともあるんだよ。」
「わかんないこと?」
「おう。サッパリわかんねぇ。」
「ふぅん…そんなこと兄さんにもあるんだね。」
「あるんだよなぁ…」

アルフォンスが開けた窓から入って来る風は、冷たい中にもほんのり春の香りがする。

「兄さん、受けるとしたら都内の国立理系だよね。」
「多分」
「都内でも、通うのここからじゃちょっと遠いね。ひとり暮らしか寮?」
「寮はヤダな。」
「兄さん他人に干渉されるの嫌いだからね。」
「おう。」
「ひとり暮らしか…兄さん大丈夫かなぁ。」
「大丈夫…だろ?」
「毎日ふりかけご飯と玉子かけご飯、交互に食べてそう。」
「おう。キムチも食うぞ。」
「そんなじゃ心配だなあ。」
「んじゃアルも行くか?」

アルフォンスはエドワードを見るが、エドワードの視線は窓の外。

「…なぁに言ってんのさ。ボク来年もまだ高校生だし。兄さんらしくないなぁ。」
「冗談。アルいると便利だからさ、何かと。」
「何かと…ね。」
「メシはうまいし、掃除洗濯なんでもこいだし。」
「それじゃ家政婦さんじゃないか。」
「それに、一番話が合うだろ?」
「……そうだね。」
「それに家政婦じゃなくて執事だろ?流行的に。」
「そんな流行は取り入れなくていいから…」

軽口を叩き合いながらも、エドワードはアルフォンスの方を見ようとしない。

「ねぇ兄さん…何か悩みごと?ボクで力になれる?」
「いや…」
「そう…」

アルフォンスは目を合わせないエドワードの横顔を見ている。
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