分家

□Monster's blood<狼の憂鬱>
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『Monster's blood』<狼の憂鬱>

秋から冬にかけての独特の空気の中で冴え渡る様に輝く赤く大きな月。明日は満月。満月前後の3日間はボクと兄さんの性欲は抑える事が出来ないくらい激しくなる。

「アル…もっと…」
「まだ、足りないの?」
「ああ」
「満月の夜の兄さんはほんとに貪欲だ」
「お前もだろ?」
「ふふ。窓も開けて直接月光を浴びる?」
「止めとけ。刺激が強すぎる」
「そうだね。あんまり爪が伸びると兄さんを傷つけそうだし」
「んなことより…」

兄さんの長い尻尾がボクの太腿に絡みつき、先端が内腿でパタパタと揺れる。それを掴んで指先で刺激する。尻尾の先端に性感帯のある兄さんはそれだけでうっとりと目を細め甘い吐息を吐き、キラキラと輝く金の目でボクを誘う。

「まったく…普段の兄さんにこのくらい積極性があれば…せめて半分でもいいのに」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。なんでもない」

ボクは机の上に散らばった本日数個目の避妊具のパッケージを口からはみ出ている牙に挟み込むと、兄さんに覆いかぶさった。



狼男とキャットピープルのハーフのボクら兄弟は、2年前にお互いの正体を明かした。
そして、『性欲をコントロールして人間を襲わない為』という理由の元、満月と前後の夜はお互いに獣の本能を露わにして性欲をぶつけ合うようになった。
去年には二人とも完全に変身できる様になったが、やはり月光をセーブしながら月夜の行為を続けている。まだ満月の光を直接浴びてどこまで自分を抑えられるのか自信がないからだ。
それとは別に人間の姿でも愛し合うことがあるが、その時の兄さんは今の積極性は全くなく、しぶしぶ応じている感じだ。
ボクとしては人間の姿の時こそ牙や爪や毛皮に邪魔されずに思う存分人間の肌を堪能しながら愛しあえるのに、と思うと残念で仕方がない。
人間とキャットピープルと狼男の性欲の差を研究したことはないが、少なくとも兄さんという人は人間の時の性欲は、普通の人間の数分の一だと思う。色気もかなり控え目…いや、人によっては皆無と言うだろう。時間がないと綺麗な髪を梳くことでさえサボる事もあるくらいにめんどくさがり。オシャレも独特で、女の子受けするとはとても思えないファッションセンス。
せっかく元はいいのにもったいない!だから兄さんの色気は皆無と言う人がいても強く否定出来ないのだ。

それでもいい。兄さんがキャットピープルなのも、満月の晩に変身してはボクを誘惑するのもボクしか知らない秘密なのだから。

そんな秘密を抱えながらも幸せに暮らしていたボク達の街に今朝、嫌なニュースが流れた。
昨夜、どこからともなく狼の遠吠えが聞こえ、家畜やペットが惨殺されたらしい。
ニュースでは野犬ではないかと言っていたが、この街は野犬や野良犬はいない。しかも、惨殺された画像を見ると、食べられているのは臓物ばかりだ。もし野犬の仕業だったとしても、先ずは肉を食べるのではないだろうか。
やはり狼の様な気がする。

ボクは狼の姿になって狩りをした事はない。それは兄さんも同じだ。満月の夜は必ず一緒にいてお互いの本能を開放しつつ理性を保つ程度に自分たちをセーブしているからだ。

もしボクらがひとりずつになってしまったら…

狼の姿になったボクは理性を無くし、家畜やペットや、最終的には人間までも襲って食べてしまうかもしれない。

もしかしたら、ボクは満月の夜、兄さんが眠っている間に部屋を抜け出し狼になっているのかもしれない。想像したくはないが、可能性はまったくないとは言えない。
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