分家

□『15』
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『15』

「わりぃ…アル。そろそろ限界だ…」

金の目が弱く光りながら自分を見つめ、絞り出すような小さな声を出す。

「兄さん!ダメだよ!しっかりして!」

自分の前にいる兄の長い金髪や首や肩は赤く染まり、背中には大きな鉄の塊。

「アル…泣くな。男だろ?」
「兄さん!やだ!ボクのそばにいてよ!行かないでよ!」
「オレの分、しっかり生きろよ」
「兄さん!サイレンが聞こえて来たから、もう少しできっと助かるよ!頑張ってよ!」
「アル…必ず…会いに来るから…泣くな…」


力の抜けていく、自分より一回り大きな身体に抱きついて大声で泣き叫んだ。

「兄さん!兄さん!兄さん!!!」



アルフォンスが目覚めるといつもの天井が見える。顔や身体にはシーツまで染みそうな大量の寝汗と涙。

「またあの夢だ。最近多いな」

ベッドの中で両手で顔を覆う。
15年前の交通事故でアルフォンスの兄はアルフォンスをかばって死んだ。
自分を抱え込んだまま最後まで励まし、冷たくなって行く兄。
大きなトラックと壁の隙間から運び出された時、兄はほぼ即死状態だと言われた。
話せていたのが不思議だと。
15年たった今も時々夢にみる。

「命日だから尚更か…」

カレンダーを見ながら小さく笑う。
あの日はちょうど兄の高校の入学式。
当時15才だった兄が、あの事故さえなければ入学していたであろう高校で、今、自分は教師をしている。
そして今日も入学式。
あの日、兄を見送った時と同じ様に満開の桜の下で。

「おはよう」

サイドボードに飾られた兄と母の写真に笑いかけ、シャワーを浴びに浴室へ向かった。



おろしたての制服がまだぎこちない新入生の隣りには、華やかなスーツに身を包んだ父兄たち。
桜の花びらが舞い散る中での入学式。

―ボクの時は母さんが来てくれたんだっけ

自分の入学式の時と重ねて生徒達を眺めていると、一人だけ父兄の付き添いのいない生徒がいる。小柄で長い金髪を三つ編みにした男子生徒。

―兄さん…?

兄の面影がだぶる。長く美しい金髪は兄のトレードマークだった。
しかし、振り返る彼の目は青。アルフォンスと兄の目は金。

―どんなに似てたってボクの兄さんはもういないんだ

アルフォンスは自傷的な笑いを浮かべる。

―15年も経ってボクはまだ貴方を探してるよ。会いに来るのを待ってるんだよ。おかしいよね…兄さん

「エルリック先生!朝礼が始まりますよ。」

玄関先で校庭を眺めていると、同僚の女教師が呼びに来た。

「はい。今、行きます。」

振り返り急ぎ足で校舎内に入って行く後ろ姿を追う視線があったことを、アルフォンスは知らない。
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