□小さな幸せ
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「へ、っくしょん!」



寒さに肩を震わせながら 
織姫は1人ひっそりとした夜の虚園を散歩していた。 



いつもにまして 
月が輝いているように見えるほど寒さで目が潤むようだった。 



「…ふう…早いとこ用済ませて帰らないと風邪ひいちゃうなあ−。きっとウルキオラも心配するだろうし」


距離感のつかめない一面砂の道を、ザッザッとかきわけるかのように進んでいく。 


夜だと一層静けさが身に染み、 不気味とさえ感じてしまう 
空虚の世界に、 
たったひとりぽっちのようで 
妙に寂しさを感じる。 



「やっぱり、グリムジョーに一緒についてきてもらえば良かったかも」


誰に聞かせるわけでもなく、 
ただぼそっと呟いた。 


ただでさえ空しいのに 
ひとりごとなんて――…。 






何十分経っただろうか、 
歩いて少し暖まった身体とともに更に先を進んだ。  



「あと、もうちょっとかなあ。確か、あそこの木に目印つけたはずなんだけど...」



目の前に見えていながら 
なかなか距離が縮まらない木を目指し歩いていた。 




虚園で私が見つけた木のなかで 一番小さな木。



目印にするには 
もってこいだったからな。 

あと、ちょっと。 




そう思ったのも束の間、 
突然の突風が吹き荒れた。 


「きゃあっ!?」

まわりの砂が風に巻き上げられ、あっという間に織姫の視界を奪った。 

「…っ!何にも見えない…!!」



すると前方から 
何やら轟音とともに 
近づいてくるものを感じた。 


砂に邪魔されて 
はっきりとは確認できないが、 竜巻のような、 
とにかく巨大で 
空気が吸い込まれていっているのがわかった。


どうしよう――…!! 

あと数メートル、 
というところまで竜巻が近づいてくると、 
さすがに立っていることすら厳しくなり徐々に竜巻の方へ 
砂とともに吸い込まれてしまいそうになった。 



ジリジリと引き寄せられ、 
とうとう脚をすくわれたのと同時に、激しい風に身体をさらわれ 宙に飛ばされてしまった。 




あと、あとちょっとだったのに――




刹那――
空を舞う影が目の前をよぎる。 

月夜に照らされ顔こそ見えないが、綺麗な輝きを放っている。 


そして己の刀を竜巻にむかわせ 空気を斬るかのごとく鋭い一撃を放つ。 



ああ…そっかあ… 
この霊圧…… 



「来ちゃったんだあ、ウルキオラ」


軽やかな身のこなしで 
地上に降り立った破面に 
つまらなそうな顔で呟く。 



「何だと?女、もし俺が来なかったらお前はどうなっていたか――」

言い終わる前に、 
織姫はウルキオラの目の前まで 素早く近づき、 
息をはずませた。 


「―わかってる!…ありがとね」

優しく微笑むと、 
そっとウルキオラと視線を重ねる。 


不思議。 


さっきまであんなに寒くて 
寂しい夜だったのに。 

「あっという間に温かくなっちゃったよ」

織姫は幸せそうに 
ウルキオラの手を取った。 


「今度は私が温めてあげるね?」



そう言って、冷えた手を強く握り締める。 







*****
「それにしても、何故あんな時間に1人でうろついていた?危険があることぐらい、予想出来ただろう?」



虚夜宮にある織姫の寝室で
2人は鉄格子からみえる月を眺めていた。



織姫はふと、理由を尋ねられたことに少し顔を赤らめ、 
ためらうかのようにそっと口を開いた。 


「―えっと、それは…」

ウルキオラの視線を避けるように、顔を伏せる。



「…。あの小さな木のそばに…」

「えっ?」


ウルキオラの言葉に織姫は即座に反応した。 


「な、なんで知っているの!?」

動揺を隠せずあたふたとする織姫を、やはり、といった様子でウルキオラは続けた。 


「あんな目立つ印があって、気付かない奴がいると思うか?」


すると、ウルキオラは 
ポケットに突っ込んでいた手をさっと織姫の前に差出し、 
その拳を開いた。 


「あ…っ」


小さく発したその声は 
安堵の息をもらしたようだった。 


握られていたのは、 
小さな小さな薄ピンクの花弁を持つ二輪の花。 


「良かったあ...あの風で飛ばされちゃったのかと思ったんだよ。私が見つけたの…かわいいでしょ?どうしても、ウルキオラにプレゼントしたくて…」




ウルキオラの手のひらの花を 
いとおしげに見つめる姿が何とも愛らしかった。 



「解らんな。こんな物のために危険を冒して行く迄もないだろう。せめて俺に一言言えば…」


「…っ、ダメなの!」


咄嗟に、織姫は身を乗り出して 叫んだ。 



「何がいけないんだ」


更に理解出来ないな、というようにウルキオラは織姫を見つめた。 

「…だって、」

織姫は一気に顔を赤く染めて 
月の影に隠れるように 
小さく声を発した。 




「…今日、あなたの誕生日でしょ?…だから…こっそりプレゼント、用意したかったの。夜ぐらいしか1人になれないから…」



ふっと視線をウルキオラの手元の花に移し、その一輪を手に取った。 



「こっちが私で、そっちのお花がウルキオラ。素敵でしょ?二輪並んで咲いている姿を見て思ったの。―ああ、私達みたい、って」





***

あれから何年が過ぎたのか― 


もう太陽のような笑みも、 
あの温かい声も



この空には響かない。 


だが――

確かにここにある、 

あの時の俺達の姿。 





**


「これでよしっと!これなら、すぐにお花のこと気付けるでしょ♪我ながら良い目印思いついた!」


小さな木に、大きく文字を彫りつけ、虚夜宮から持ってきた水を二輪の花に優しく注ぎ込む。 





ウルキオラ×織姫 




ずっといっしょ。 





End.
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