BooK

好きなのは
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 『プリンちゃあーん!!』

 『なあお前も甘党な訳?』



 出会いは偶然だった。





 □


 キーンコーンカーンコーン…

 4時限目の終わりを告げるチャイムが
 立海大の校内に鳴り響く。

 「起立!礼!、」

 私は一礼もしないで
 急いで教科書やらノートを
 机の中に入れて
 廊下に出駆けて
 全速力で走り出す。


 "絶対に
 今日こそ勝つ!!"

 そんな想いを抱きながら
 私はただただ
 ひたすら
 走り続けた、



 食堂に!


 「今日こそ絶対勝つ!!」

 昼休み。
 全校生徒が廊下に一斉に賑わい始める時間帯。
 毎日この争奪先は行われる

 そして毎日、

 この争奪先には…
 必ずあいつがいる。




 「お!ゆめ!
 また負けに来たか?」


 必死で走っている私の隣に
 ひょっこり現れたのは
 バカみたいに食い意地はってる
 テニス部レギュラー
 丸井ブン太。
 "あいつ"の正体はブン太のこと。

 クラスが違うから
 あんまり会うことはないけど
 この昼休みにだけ、必ず遭遇する

 いつも負けるんだ、
 ブン太には。
 それが悔しくて
 毎日走り続けてる私は
 馬鹿なんだろうか…。

 「そっちこそ!
 今日は負けないんだからねっ!」

 私はそう言いつつ
 足の速度をあげる..

 「それよりよく俺のスピードに着いてこれんなあ」

 チラッと横を見れば
 楽しそうに笑うブン太
 あー可愛い…

 「これでも運動部なんですけど!」

 私もつられて無意識に笑顔になっちゃう。
 ブン太の笑顔見てると
 こっちまで元気になるんだよね。

 「まあ結局勝つのは俺だぜゆめ。」

 自分を指さして
 もう勝った気でいるみたいだ。

 「はいはい、
 ブン太は残り1個ってとこで
 誰かにとられるから!」

 私が舌を出して言うと


 「俺は余裕。
 ゆめは結局
 食えずじまいってとこだな〜☆」

 なんて、ふざけて笑い出した

 「んなわけないでしょ!」

 え、さっきからなんの話だって?




 限定プリン!!!!!




 この立海大附属中には
 限定プリンがあって
 たった10個しかない。
 そして週に3日。
 どっかのドラマじゃないからね、うん。
 私達はそれを巡って
 勝負!って事。

 もう私にとってプリン争奪戦は
 習慣みたいなものになってる。
 もう一つはブン太に会えること。
 学年は一緒なのにクラスが違うせいで
 ブン太に顔を合わせることは
 移動教室のすれ違いか
 このプリン争奪戦。
 だからこれに参戦しないことには
 会えない。

 最初に出会った時も
 プリン争奪戦だった。

 『プリンちゃあーん!!』
 『お前も甘党なわけ?』

 そして一緒に毎週走ってるうちに
 段々その笑顔に惹かれて
 好きになってったんだ。






 バーン!

 勢いよく食堂の扉が開く。
 開けたのは食堂のおばちゃん。


 「おばちゃんサンキュー!
 絶対食べるよ!」


 「俺が食うんスからね
 丸井先輩とゆめ先輩!」

 私の隣にすごい勢いで
 走ってきた人物。
 ワカメ頭。紛れも無く
 赤也だ。
 赤也とも知り合ったきっかけはプリン。

 「赤也!!
 あんたブン太に
 似てきたんじゃない?」

 「(うるせー)(うるさいッスよ)!!」
 2人が同時に口を開いて
 同じことを言うから
 笑わないにも無理がある。

 「アハハハハ!まあいーよそれは!
 それよりあとちょっとだー!」

 「私(俺)が食べる(食う!!)」


 あとちょっと

 あと少し


 …





 ドカッ!

 「いた!あ‥れ?」


 誰だか私にぶつかって
 その勢いで後ろに倒れてしまった

 「えっ?ぷ、プリンわあ!?」

 目の前には
 プリンのトレーと
 運良くゲットして笑顔を見せる生徒達。


 ってこれさ…


 「…私のプリンちゃんがぁー!!」


 嘘、とれなかった‥?
 また今日も負け?


 「おーい、ゆめ!」
 勝ち誇った顔を
 座り込む私に見せる
 ブン太。

 「俺の勝ちだぜ!」

 「‥…悔っしいー!」

 また負けた…悔しい!
 正直今日は体調も良かったし
 自信あったのに!

 「んじゃ俺はとれたんで
 行きますね♪」

 赤也もゲットできたらしく
 何処かに行ってしまった。


 「ゆめ?、
 大丈夫か?」


 ブン太が私の顔を覗き込んできた。
 ちょ、近い近い!
 しかも大丈夫かなんて
 この状態で大丈夫な訳ないです。

 「な、なんだよ〜!
 自分だけ!
 今日は自信あったのに!
 また負けたし…」

 近すぎた事に驚いて
 頷く。
 これでもかってぐらい不機嫌な態度。
 あー、
 こんな態度とったら嫌がられるかな…



 「俺だけ?おい、
 んなわけねぇだろぃ。」

 …へ?
 ブン太が意味不明な事を言ってきたから
 顔を上げると
 無意識に首が横に傾げた

 「は?どーゆー意味
 ‥…ひゃっ!」


 そう呟いた瞬間、
 冷たいものが頬にふれる



 「冷たっ!…ってえぇ!?
 プリン?」

 何故だか私の頬にふれたものはプリン。
 なんだブン太のプリンか、と思い
 ブン太を見ると
 もう1個を手に持っていた。

 「ゆめの分。
 どうせとれねーと思ったから
 とっといてやったぜ。
 ど?やっぱり天才的だろぃ?」


 ちょっと…

 私嬉しすぎて死にそうだよ…


 「ブン太!」


 「んあ?なんだよ」


 ブン太の制服の裾を掴む

 「ありがとーね!」

 きっと今の私の顔、
 今までで1番と言っていいほどの
 笑顔かもしれない。

 「!…行くぞっ//」

 制服の裾を掴んでいた私の手を
 掴んで照れ臭そうに笑った。
 ねえ、ブン太。
 今の貴方の
 真っ赤な表情と
 掴まれた手に、
 期待しちゃってもいいですか?


 好きなのはプリンより
 あなた


(でも結局ゆめの負けだかんな)
(明日は勝つもんね!!)
((…かわぇえ。))




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