BooK

□最高すぎる嘘
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 「ゆめー、教科書忘れた。」

 「だからー?」


 後ろから聞こえてくる声の主に
 あたしは振り返って言葉を返す。
 こうも毎日毎日来られると
 いい加減慣れてきちゃったんだけど、全く。

 「何言ってんの?ゆめ」

 「だから、忘れたから何?」


 あたしがブン太に近づくと(廊下側に)
 貸して下さーい!なんて
 めちゃくちゃでかい声を
 出すブン太ははっきり言って可笑しい。

 「ちょっと、わかったから
 そんなでかい声出さないでよ!」

 「だって今ゆめが言ったんだろぃ?
 だから何ー?、って。」

 確かに言いました。
 言いましたけども!
 めちゃくちゃ嬉しいけども!
 周りの女の子達の視線が
 痛いからね、うん


 「あたしが毎日どれだけ大変か
 わかってんの?」

 「んー?聞こえねーなあ」


 …こいつムカつく!!



 「…で、今日は何の教科ですか。」


 「数学と理科!!」


 うっわ、ブン太の嫌いな理数科ですか。
 って、ちがーう!!

 「ごめん、ブン太。あたし
 次の授業理科だよ…」

 大体借りてっちゃうのは
 一日平均2教科だから
 一気に渡せるのに
 今日は珍しく被った。


 「まぢかよ!…じゃあ
 今だけ数学借りてくわ」

 「え!まだ来るわけ?」

 「え、駄目なわけ?」


 得意のガムを膨らませながら
 何故かあたしを見つめてきた。
 あ、ブン太って綺麗な目ぇしてるな…




 「おーい、ゆめ?」

 「へ!あ、ごめん!」


 って違う違う違う。
 とりあえず数学
 持ってこなくちゃ!

 あれ、あたしいつの間にか
 ブン太に尽くしてる感じ?





 「はい、教科書とノート」

 「サンキュー!ノート付きとか
 ゆめ気ぃー効くじゃん」

 「あたしはいつでも気ぃ効いてますー」

 そう言って笑うと
 ブン太の手があたしの髪を
 くしゃって崩す。


 あ、れ?なんか今日
 いつもと違くない?
 こんなに優しかったっけ?


 「…ブン太?」

 「なあゆめー」

 「え」


 あたしが今貸したノートを
 パラパラめくりながら
 あたしの名前を呼ぶ


 「今まで嘘ついてたわ、
 悪ぃーな。」


 「は?」


 嘘?嘘ってなんだ嘘って!
 毎日平均2教科も貸してあげてる
 あたしに向かって
 何か嘘ついてるのかお前!

 「ちょっとブン太、嘘って何の話よ」



 「教科書忘れてたとか嘘。」


 な ん だ そ れ!



 「ただゆめに会いたかっただけ」


 「は?」


 「だってこう毎日ここ来れば
 お前に変な虫つかねーだろぃ?」


 ニッと笑ってあたしの頭を撫でた

 ブン太の口から出る言葉に
 全く思考回路がついていかない

 「待っ、それ、どーゆー意味で「あ、」」


 「あったあった」


 また意味深な言葉で
 あたしの言葉を遮った。


 「ゆめの気持ちも
 よーーくわかったからな♪」



 大分前に書いたノートの端には
 いくつ書いてあるのか分からない
 "ブン太"の文字。


 「ま、待って!「そう焦んなよ」

 じゃあ使うからなー。


 それだけ言い残して
 自分の教室に戻ってった。

 どうしよ、ブン太にあたしの気持ち…
 ばれちゃった…

 てかあたし絶対顔赤いよ…!

 「また後で借りにくるかんなー!」


 少し遠くからそう叫ぶと
 赤い髪は見えなくなった。

 ブン太の手の平の感覚が
 撫でられた頭に残ったままだった

 とんでもなく
 最高の嘘でした


 (ゆめ!数学サンキュ!)
 (理科はあるんじゃないの?)
 (ん?ねえよ、もち貸してくれい☆
 あ、あと一つ貰いにきた)
 (え、何を?)
 (ゆめを貰いに来ました)
 (…ばか//)
 
 
 
 
 09.11.29再録
 
 

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