BooK

□独占欲
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 「あ、ブン太おはよう」

 「おー、おはよゆめ」

 早朝の少し冷えきったドアノブに手をか
 けるとほんの少し眠気が覚めた。もう夏
 に入る時期なのにも関わらず低気温って
 のはどうなんだ。今年の夏は冷夏にでも
 なんのかよ。まあその方が夏休みの練習
 は大分楽になるけど。朝練するのは部員
 なのにそのマネージャーのほうが先に来
 て仕事してるなんて相当真面目なマネだ
 よなゆめは。何気昨日の部室よりも綺麗
 になってるし部誌と真剣に睨み合って何
 かやってるし。幸村君もゆめだからマネ
 許可してくれたんだろうなー。

 「お前って本当真面目な」

 「なにそれー。悪いの?」

 「いや、全然悪くねえよ。寧ろ俺はそう
 ゆうとこがいいと思うぜぃ」

 部誌に向いてた目線が俺に向けられた。
 "そうゆーとこが好き"って言おうとした
 けど恥ずくて言えなかったから修正。顔
 赤くして可愛い、とか思ったけどこれま
 た恥ずくて言えねえ。…俺って情けな。
 それでもそういう俺らしさを分かって
 くれて笑ってくれる。

 「、ありがと」

 ゆめが笑うと俺も自然に頬が緩む。その
 笑顔を俺だけのものにしたいって思って
 もマネやってる以上無理がある。それで
 も彼女を側に置いておきたいと思うのが
 彼氏ってもんだろぃ。


 「なあゆめ、」

 「ん?なに?」

 「お菓子、ある?」

 そんなこと考えてたら急に腹減って
 きた。朝飯食ってきたのに腹減って仕方ねえ。

 「そりゃあるよ?、てか作ってきたし」

 椅子を引いて自分のロッカーから鞄を
 取り出すと差し出してきた。

 「はいブン太。」

 「お、クッキーとか美味そう!」

 受け取ってテーブルに広げると甘い匂い
 が漂う。こうやってゆめが作ったお菓子
 を食べるのが本当幸せに感じる。

 「んー、うめえ!」

 「ならよかったーっ」

 俺が美味いと言えばゆめも喜んでくれる
 。このまま部室に、誰も来なきゃいいの
 にな。まあ、無理なんだけど。


 「おはよッス先輩達!」

 「おはよーさーん」

 「やあみんな」


 俺の願い脆くも崩れ去り。

 「あ、おはよーう」
 「よっ、」

 「あぁあ!丸井先輩ずるいッスよゆめ先輩
 の手作りお菓子食べてー!」

 いやいやいや狡くねえよ。俺彼氏だよ。

 「本当に狡いよブン太」

 「幸村くん…」

 幸村君まで狡い奴扱いかよ。仁王なんか
 ゆめの鞄あさってる。触んなよ馬鹿。


 「ゆめ、お前さん偉いぜよ」

 「練習後に渡そうと思ったのに…、仁王
 見つけるの早いってば」

 「………え」


 目の前で起きてることがよく理解できな
 い。は?どういうことなわけゆめ…?
 俺にだけ作ってきたんじゃねえの?仁王
 とか赤也とか幸村君にもあるってこと?
 え、なんだよそれ。


 「ゆめ先輩ありがとッス!」

 「いーえっ。はい、幸村も」

 「ありがとう。みんな食べるのは後にし
 て練習の準備だよ」


 ゆめの目の前で赤也がめちゃくちゃ喜ん
 でて無性に腹が立った。

 「…ブン太?」

 「お前ちょっと来い」

 「え?、ちょ!」


 黙って眺める俺を心配そうに顔覗き込ん
 でくるから余計に苛々して
 ゆめの腕掴んで部室を出た。





 「お前さ、何でみんなの分とか作ってき
 ちゃってるわけ?」

 「え、や、それは…」

 「俺だけじゃねえの?」


 わかってる。ほんとは。

 「だっ、て」

 わかってるよ。テニス部のマネージャー
 として気を使わなきゃいけないって思っ
 てしてることだって。ゆめが優しすぎる
 からだって。わかってるけど俺の嫉妬心
 、独占欲で溢れちまって…仕方ねえだろぃ。


 「悪ぃ。ゆめべつに悪くねえのにな。
 …ただの俺の我が儘、」

 「……嬉し」

 「…え」

 「嫉妬してくれたんでしょ?」

 小さい手で俺の手を取ると優しい目で見
 つめてきた。


 「ごめんねブン太。でも、あたしが好き
 なのは…ブン太だけだからね」

 自分で言って顔赤くしてるゆめが可愛く
 てそのまま手を引いて抱きしめた。


 「いつも言えねえけど、ゆめ大好きだぜぃ」

 「あたしも好き」


 「じゃとりあえずキスさせろぃ」

 「え!、」


 お互いの背中にしっかりと腕回してした
 ゆめとのキスで朝練パワー注入完了。



 

 (作ってもいいけど俺より多く作んなよ)
 (わかったわかった)
 (ブン太にゆめ。もう始まってるんだけど)
 ((ご、ごめんなさい))
 
 
 
 20100502
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