BooK

あの頃に戻れるなら
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 別に特別な奴でもなかった。
 ただ餓鬼ん時からずっと一緒で。
 離れた日なんかないぐらいに。
 多分この15年間、1番近くにいたのは
 ゆめ。お前だったのかもしれない
 だからお前が突然俺のこと好き
 って言ってきた時は正直かなり驚いた
 好きな奴って大体とおくにいて、
 なんか思うように上手く話せなくて、
 そんなイメージしかなかったから。
 ゆめも俺も前方後方
 当て嵌まらねーだろい。



 『ブン太ー、
 うち実はブン太のこと
 好きなんだよ?』

 『え。

 ぁー…、俺等さ、
 ダチでいようぜ?』


 あの時俺はそう言った。
 ダチ?違ぇよ、俺等は"幼なじみ"
 ってやつだろ。

 『…ごめんごめん、
 冗談だよ!
 友達、だもんね』

 そう言ったあいつの顔は
 すげえ寂しそうで。今にも
 泣きそうな顔をしていた。
 無理矢理愛想笑いして。
 冗談なんて顔してなかった。
 
 けど俺はゆめとは
 幼なじみでいたかった。
 ただこの関係が俺は好きだったんだ。
 飾らなくていいから、
 本当の自分でいられるから。

 『ほんと悪い。』

 『ううん、気にしてないよ!
 これからもシクヨロ!』
 『あ!パクんな!』


 いくら俺でもあの顔をみれば
 冗談じゃないことくらいわかってた




 あれから二ヶ月…や、
 四ヶ月も経ってるかもしれない。
 どうしてだろう、あいつが俺の前から
 いなくなったのは。
 どうも親父さんの転勤が決まって
 あいつはそれに賛成したらしい。
 好きだと言われてから直ぐに
 あいつは引っ越していった。
 俺にも、俺の母さんにも、弟達にも、
 …何も伝えずに。

 ただ、幸村君と仁王だけは
 それを知っていた。
 意味がわからない、
 俺がそんな疑問符を
 頭上に表していると
 幸村君が口を開いた。

 『ブン太には言わないように
 口止めされていたんだ。
 絶対に止めるから、って。』

 何でなんでナンデ…?

 俺等幼なじみだろ?
 何でも話してきた仲じゃん。
 なんかあったら相談しあおう、って、
 お前が言ったんじゃん。


 『もしもしゆめ!?』

 −おかけになった電話は
 現在使われておりません−…


 音信不通になってからというもの
 ゆめの声も聞けない上に
 居場所さえわからなくなった


 「丸井。」

 「…柳?」

 「ゆめの居場所がわかった」

 「…どこにいるんだよ!」

 俺は全て柳から聞いた。
 それでも俺はゆめに
 会いに行くことはなかった。
 いや、行くことなんて出来なかったんだ。

 だってまさかあいつが
 大阪にいるなんて。
 まさかあいつに
 付き合ってる奴がいるなんて。

 何も知らなかった、
 何も教えてもらってない。
 そんなこと思う隙間なんかなかった
 白石と付き合い始めたのは
 いつから?
 俺がお前を振ったとき?
 どうしてこんなに
 あいつが気になる?

 幼なじみだから?

 違う

 全然違う。


 俺は最初から
 あいつが…
 好き、だったんだな。

 この気持ち早く伝えてれば
 あいつは白石のもんじゃなかったのか?
 
 気付くのが遅すぎたんだ。
 馬鹿だ。何が天才的だ。

 「俺、だっ、せー…。」





 コートの隅で俯きながら
 溢れてきそうな涙を
 堪える
 俺は知らず知らずの内に
 手が真っ赤に染まるほど
 ラケットのグリップを握っていた
 
 
 
 

 真っ先に君を抱きしめるのに


 "10.01.30.再録
 
 
 

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