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□歌の翼に
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彼女の言った事は大正解。
ただいま学園中が期末テストの準備期間中、だから、職員室も各準備室も当然生徒の立ち入りは禁止されている。
準備室以外で会うことが滅多にできない、私たち(主に私だけかな…)にとっては、辛い期間。
でもそんな気持ちを、かの準備室の住人に訴えるわけにもいかず、せめて近くにいてその存在を感じていたくて、つい音楽室に足を運んでは壁一枚隔てた、この場所に座ってしまう。
『言葉にしちゃいけない、思いは胸の中に秘めておくんだ…』
それは間違っていないし、私にだってよくわかっている、だから音にするんだって事も…。
でも、気持ちが抑えられないことがある。
側にいるだけでよかったのにどんどんと欲張りになっていく自分がそこにいて…。
「私こんなに、欲張りだったかな・・・」
自分の中にある小さな熱源が、少しずつふくらんでいるのを押さえたいんだけどできない。
抱きしめてもらえるだけじゃイヤ
触れるだけのキスじゃイヤ
そう思ってはそんな自分に自己嫌悪。
会えれば少しは気分も紛れるのに、こんな気持ちの時に限って会うことがかなわない状況…。
「どうして欲しいんだろ…私…」
一人でぐるぐる、どこへもたどり着けなくて結局また、大きなため息一つ落とす。
…『スキ』ダト、イッテクダサイ…
…スキだと言ってもいいですか?…
ふっと浮かんだ言ってはいけない望みを気持の底に沈める。
「言われなきゃ、諦めるの?
その程度の気持ち?
ダメじゃない、しっかりしなさいよ!」
「スキ」の替わりに口に出すのは、自分への一喝。
この気持を貫くと決めたんだから、負けられない。
きっと思いは届いている、
私が私を信じないでどうするの!
「…大丈夫、まだ、がんばれるよ」
ね、先生?
心の中で呟いて、立ち上がる。
ケースから取り出したバイオリンを構えて弓を弦に当てた、一瞬の緊張感が全身を支配する。
奏でるのはメンデルスゾーンの『歌の翼に』。
あふれる先生への気持ちをこの曲に託して…。
音楽室の壁は防音だから聞こえてなんかないだろうけど、それでもいい私が奏でたかったから…。
想いを乗せた音色が音楽室を静かに満たしてゆく、夕暮れのあかね色に染まった教室に響くその音は空気を振るわせる。
ふと、私の音に添うようにもう一つの音が聞こえてきた。
え?
これは…歌声…?