ファシオミル

□アルバレードの花嫁〜裏と表の花嫁〜
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「無茶ですわ、アディラーダ姫様。城下を歩き回るなどお止めくださいまし。確かにこの国は割合に平和が保たれています。ですが、安全というわけではありませんのよ?…お側仕えのことは嬉しいですわ。だって没落貴族の娘がメイオルド王家の姫君に召抱えられることなどございませんもの…。ですが、アディラーダ様だってお子が欲しいで」
「ううん。今のところ興味ない」
アディラーダはラナジェータの言葉を途中で遮り、自分の意見を述べた。
メイオルド王はアディラーダの母、シルゼーダをこよなく愛していた。
だからその娘であるアディラーダも猫っ可愛がりして、隣国に送り出されたのだ。
だが、その夫に興味がない。
グラシードは確かに良い男だ。
しかしアディラーダは、自分の下僕になるような男には飽き飽きしていた。
メイオルドの王宮でもアディラーダには下僕がかなりいた。
剣で切りつけると大抵は怯えて(もしくは王の愛娘であるために)、相手がなんでも言うことを聞いてしまう。
アディラーダにも密かな望みがあった。
夫に守ってもらいたい。
だが、聖剣の達人であるアディラーダを守れる男などいやしない。
だからアディラーダは、男に期待などしなくなってしまったのだった。
アディラーダは気分を変えるべく、自分の衣装箱からヴェールを取り出した。
「これ!ちょっと被ってみてよ?…うん、ラナジェータ姫ってば似合うじゃない!!じゃあ、あたしの振りして後はよろしく〜♪あ、グラシードの寝台に入るのは暗くなってからでお願いね?昼間っから、と言われるのはちょっと恥ずかしいし…」
ラナジェータに薄いヴェールを被せ、自分は顔の見えない濃いヴェールを被って顔を隠し、丈の短いローブを身に纏うとヒラヒラと手を振った。
「お、お待ち下さいませ!アディラーダ様!!」
呆然と見送るグラシードを差し置いて、ラナジェータが悲鳴のようにアディラーダに声をかけるが、アディラーダは人差し指を立てて、チッチッと振ったのだった。
「あたしは侍女のアディーナ。買い物してくるわ。じゃあね〜!」


「…如何なさいました?サーベージ様」
執務をしながらたまにボ〜っとするサーベージの様子に、長年仕える乳姉弟のエデンが声をかけてきた。
初めて見る様子なので心配になったのだ。
エデンとサーベージは物心ついたときには、ずっと側にいた。
彼女のほうが1月ほど年上であるが、女のほうが精神年齢は上なのでいつの間にかサーベージを引っ張っていた。
サーベージはエデンと一緒になるなら楽だとは思ったが、生憎と彼女はサーベージのような“デキル”男には興味はなかった。
16になった途端、彼女はサーベージの護衛隊の1人リッカーとサッサと結婚してしまった。
今は1児の母である。
それでもサーベージに仕えている。
「…別になんでもない」
まさか、弟の“妻”を気になっている。とは言えず、黙り込んだ。
だがさすがに約24年間、伊達に一緒に育ってきたわけではなかった。
「…アディラーダ様、ですね?謁見の間に入る前にチラリとお顔を拝見いたしましたが、お可愛らしい方でいらっしゃいますね。…後数年経ちましたら、綺麗な女性におなりでしょう」
エデンに断言されて、サーベージは少し困った顔をする。
気になってるとはいえ彼女は弟に輿入れしてきて、義妹なのだ。
綺麗になる?
そんなことは解っている。
今だって十分、綺麗だと思う。
…何か企んでいそうな目をしているが、それでも大抵のことは王家である以上、ある程度なら跳ね除けられるだろう。
「…サーベージ様。グラシード様から奪ってしまえば?」
ヒクッと口の端を引きつらせて、サーベージはエデンを睨め付けた。
「グラスはきっとアディラーダ姫を気に入ってると思う。そんなことできるか!」
そして布を頭に巻きつけた。
「ちょっと街に行ってくる。執務はその後にする」
そして後も振り返らずに、乱暴に出て行ったのだった。


「こんにちは。ここは酒場かしら?どう?踊り子は足りてる?あたしを何曲か雇ってくれない?」
表や外観で良心的そうだ。と判断したアディはトコトコと中に入り、ヴェールを外し店主と交渉をする。
店主はアディの容姿を見て、スバラシイ逸材だ!と、まず1曲踊るように進めてきた。
アディは足を軽くリズムを取りながら、舞台に上がる。
薄いショールを広げ、まだ十分でない女としての魅力を頑張って出してみる。
アディが自分で思っているより酒場の男たちにとって、アディは十分魅力的だった。
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