ファシオミル

□アルバレードの花嫁〜裏と表の花嫁〜
4ページ/18ページ

アディラーダの手放しの称賛に、サーベージはほんの少し赤くなる。
「…そ、そう?まぁ、普通だよ」
しかしサーベージが普通なら、腰を抜かして座り込んでいる弟はかなりのヘタレということになる。
そのことに気づき、サーベージは慌てて用事を思い出したようにアディラーダに声をかけた。
「あ、俺まだ執務の最中だった。もう大丈夫そうだから、自分のハーレムに戻るよ」
アディラーダはニッコリ笑う。
「はい。あたしもグラシード様ももう大丈夫です。ありがとうございました」
可愛らしく腰を屈めてお辞儀をする。
サーベージは、アディラーダとグラシードに軽く手を上げて去っていった。
その後ろ姿を祈るような思いで見送ったグラシードは、アディラーダの“怖い”笑みに抜けた腰のまま、ズリズリと後ろに下がった。
「…うふふふふふ。2人きりね?」
グラシードは一端息が止まり、またもや悲鳴を上げそうになった。
アディラーダは口を塞ぐ。
「もうサソリはいないのだから、悲鳴を上げないでよ!それに取って食おうなんて思ってないわ。あたしは寛容なのよ?あたしの言うことを聞いてくれたら、側女とイチャイチャしていようが構わないわ」
するとグラシードは、明らかにホッとした顔をした。
アディラーダはその顔に、“性格が悪いわけじゃなさそうだ”と判断して話を進めた。
「あたしはね、別に結婚に興味も望んでもいなかったのよ。だけど、お父様が“どうしても”って…。あなたとは年が合うんですって。だからあたしにしてもだけど、あなたにとっても強制でしょ?で、あたし考えたのよ!あなたには寵姫がいるんでしょ?だから、あたしはあなたの寵姫が寝台に入ることを黙認する。代わりにあなたはあたしの後ろ盾になる。ね?良い案でしょ??」
ニコニコと顔を覗き込んでくるアディラーダに、グラシードはちょっと考えてOKのサインを出した。
なんか無茶苦茶なような気がするのだが、グラシードにとってはラナジェータのほうが大事なのである。
正式な妃がサバサバした性格ならば、大変楽だと思ったのだった。
アディラーダは嬉しげに笑いグラシードに抱きついた。
グラシードはアディラーダの身体の柔らかさに、自然に腕を身体に絡めた。

ベチッ!

「いてっ!!」
「調子に乗らない!」
この様子を黙って観察していた者がいた。
アルバレード国王ジュビエールだった。
近くによるとばれてしまうので、窓の外からだった。
声が聞こえないので、雰囲気や様子からだったが仲が良さそうに見えた。
(良かった良かった。グラシードがとんでもない悲鳴を上げたから何事かと思ったが…。しかし、まさかサーベージが…)
サーベージとアディラーダの会話も見ていたジュビエールが驚いたのは、サーベージの対応だった。
(あれだけの良い男なのだから、素晴らしい美女が似合うのに…)
アディラーダを気に入ったのが一目で解った。
(まさかあやつが、どこにでもいそうな娘を気に入るとは思わんかった。だが、好みは解った!パーティーを開こう!!で、なんとしてでも結婚を…!!!)
“アディラーダ”を気に入ったとは思ってもみない国王は、トンチンカンなことを考えそっとグラシードのハーレムから出て行ったのだった。


「…あの、お妃様。わたくしにご用があると伺いましたが…?」
ビクビクとアディラーダの部屋に入ってきたのは、整った目鼻立ち、南大陸特有の浅黒い肌と蜜蜂のようなプロポーションを持つ、目を見張るほどの美女だった。
アディラーダは隣に座っているグラシードを、クルッと振り向いた。
「あんたってとんでもない面食いだったのねぇ…。でも…、ふむふむ。あたしに背格好が似てるわね?」
「背格好だけだ、似てるのは。性格は雲泥の差だ」
「…あ?何か言った?」
「何も言ってない!」
地獄耳のアディラーダに、グラシードは慌てて首を大きく振った。
「あなたあたしの側仕えになるつもり、ない?そうすれば堂々とこのハーレムの中を動き回れて、グラシードのところに入り浸れるわよ?で、ついでにあたしがこの王宮を抜け出して街にいる間、あたしの身代わりをしていてもらいたいのよね〜」
グラシードとラナジェータの口が、パッカリと開いた。
「何考えてるんだ?!王宮を抜け出すぅ〜?無理だ!!」
グラシードが立ち直り文句を言った途端、アディラーダに顔面をバシッと平手で叩かれる。
「煩い!女のヒステリーじゃあるまいし、隣で甲高い声を出さないでよ!」
だが、目の前にいたラナジェータも口を出してきた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ