ファシオミル

□アルバレードの花嫁〜裏と表の花嫁〜
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「…ちょっと、まだ明るいわよ?女がいたってあたしは別に構わないし。だけど、あたしを“誤魔化そう”とか、“手篭めにして知らん顔しよう”とかするのは、許せないと思うわけよ。そういう人には、あたしはお仕置きを考えるってわけ」
抱き寄せてキスをしようとしたグラシードを押しのけて、可愛い笑顔で言われた言葉にグラシードは頭が追いつかず、ボケっとした。
その隙にアディラーダの左手が、すっと懐の隠しに入った。
出てきたときには、しっかり短剣が握られていた。
ニッコリと邪気のない可愛い笑みそのまま、短剣を持つ手が自分の頭上に向かって上げられたとき、グラシードは短剣で“襲い掛かられる”ということと、それが“笑顔”ということに恐怖で慄いた!
「ギ、ギャアァァァァァァァァァ………!!!」
腰を抜かし倒れた上に、負い被さるようにアディラーダはニッコリと伸し掛かる。
そして一言。
「煩い」
首のすぐ横に、グサッと短剣を突き刺したのだった。
そのキラキラした目に、ゾッと背筋が凍った。
(…兄上より怖い…!!)
すると遠くから、誰かが走ってくるような足音がした。
アディラーダが目を細め、サッと立ち上がる。
バタバタと入ってきたのは、サーベージだった。
さっきのグラシードの悲鳴は、王宮の後宮中に響き渡ったらしい。
サラサラの髪を掻き上げ、良く通る甘い声で外から部屋に問いかけてくる。
「どうした?!何があった!」
「兄上!!」
恐怖から大声を上げたグラシードに、ドアを開けてサーベージが飛び込んでくる。
「グラシード!アディラーダ姫!!」
サーベージが一緒だろう。と思い呼びかけると青ざめて座り込んだグラシードと、短剣にサソリを刺して困った顔をしたアディラーダがいた。
そしてサーベージを振り返ると、ホッとした顔をする。
「サーベージ様…。ビックリしました。お部屋に入るとサソリが上からグラシード様のところに落ちてきたのです…。持っていた短剣でなんとか退治しましたの。でも、グラシード様は怖がってしまっていて…」
アディラーダがニコッと笑うと、サーベージも目を和ませた。
が、アディラーダの後ろで未だに座り込んでいるグラシードに目をやると、首と手を思いっきり振っていた。
何かを言いたそうに、口をパクパクさせてアディラーダを小さく指差す。
だがその顔が、ヒクリと引きつった。
ん?と視線を移すと、いつの間にかアディラーダがグラシードに向いていた。
サーベージは首を傾げる。
(…まさかとは思うが…。グラシードがアディラーダ姫に何か脅されていたりして…。まさかな…)
可愛い義妹ができて、サーベージとしてはとても嬉しいのだ。
ハッキリ言って疑いたくないし、もし何か脅されているとしても御して欲しい。
小柄な身体、細い肩細い腰。
この南大陸では珍しい、ミルク色の肌…。
抱きしめたらきっと最高の一時を過ごせて、可愛らしい妻になるだろう。
サーベージがフッと心を宙に彷徨わせている間に、現実ではグラシードが目で兄に必死に助けを求めていた。
座り込んだ自分の前に、アディラーダがニコニコしながら腰を下ろす。
そして小さい声で
「余計なことは言わないの!…それとも服をビリビリに裂いて、ハーレムから追い出そうか…?」
グラシードはブンブンと頭を左右に振る。
「ごめんなさいっ!なんでも言うことを聞きますので、お許しください!!」
その願ってもない言葉に、アディラーダの笑みは深くなる。
とうとう一国の王子を下僕にできたのだ。
これほど幸せなことはない。
「うふふ…。OK〜♪」
アディラーダはスッと立ち上がると、何か考え込んでいるらしいサーベージに近づいた。
「…サーベージ様?如何致しました?」
アディラーダがサーベージを下から覗き込むと、焦点がアディラーダに合った。
そして目を大きく開いた!
アディラーダが何事か?と自分を見ると…。
未だに左手に握りこんだ短剣の先のサソリがまだ動いていて、その尻尾の先の毒針をアディラーダに刺そうとしていたのだ!!
「短剣を捨てるんだ!」
アディラーダが硬直したのを見て、サーベージはアディラーダの左手首を手刀で叩いた。
カラン。と音を立てて、アディラーダから落とされた短剣がサソリごと落ちた。
すかさずサーベージがサソリを踏みつける。
ベシャっと音を立てて、生命力の強いサソリもようやく死んだらしい。
「………サーベージ様って…。カッコイイ…」
アディラーダは嬉しそうに、可愛らしく笑ったのだった。
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