ファシオミル

□アルバレードの花嫁〜裏と表の花嫁〜
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“眠れる獅子”とあだ名されているサーベージは、かなりストイックな考えの持ち主だ。
政治的な手腕も戦のときの戦士としても、素晴らしい働きをする。
この南大陸では、戦は日常茶飯事に近い。
このアルバレードが戦乱の渦に巻き込まれていないのは、偏にサーベージのお陰だと言っても過言ではなかった。
後はこれで妃でも貰って、子供でもいれば完璧だった。
ところがサーベージにはとんでもない欠陥があった。
“女なんか面倒臭い”
これが口癖だ。
勿論、子供なんかいやしない。
ほんのたま〜〜〜に羽目を外し、身分を隠して酒場(この南大陸では娼館と併用されている)に行くくらいだ。
綺麗な美女をあてがってはみるものの、ほとんど関心を示さない。
自慢の息子たちはとんでもなく良い男なので、とてもモテるのだが…。
「…本当に勿体無い…。あれだけの容姿と頭と力があれば、何人でもハーレムに上げられるのに…」
ジュビエールは呟くが、誰も聞くものはいなかった。


グラシードのハーレムは西にあった。
南大陸の貴族に嫁ぐ女性は、全て後宮(ハーレム)に自分の部屋が作られる。
アルバレードの国王ジュビエールはかなりの女性好きで、王宮の北一帯が国王のハーレムである。
そこに正妃がキッチリ5名、その他たくさんの側室がいることをアディラーダは聞いていた。
サーベージとグラシードには、まだ妃がいないことも…。
だがその噂が嘘だと、アディラーダには解った。
いや、サーベージのハーレムには行ったことがないから知らないが、グラシードには女がいる…。
(…別に居たって構わないけど、黙って誤魔化そうするのは詐欺よね?………お仕置きが必要だわ…)
アディラーダは残酷に唇の両端を引き上げて笑った。
その笑みをグラシードは勘違いする。
(…ラナの配置したハーレムの花々が気に入ったのか…。良かった…。ラナと仲良くしてくれれば、俺もアディラーダ姫を大事にできる…)
ラナ。
ラナジェータ=リセ=ナミカは、このアルバレード王国の小貴族ナミカ卿の娘だ。
父親が商取引で失敗して借金を作り、尚且つ隣国ラダビアで戦に巻き込まれ亡くなってしまい、ナミカ家が没落してしまったのだ。
そして借金返済のために酒場に売られるところを、ちょうど酒場に遊びに来たグラシードがラナジェータの美しさに買い取り、自分のハーレムに連れ込んだ。
以来、ラナジェータはグラシードの寵姫となり、このグラシードのハーレムの采配をしてきたのだった。
(まずは、俺に逆らわないように夫婦としての交わりを果たしてから…)
と考えているうちに、アディラーダに与えようと用意していた部屋の前に来た。
南大陸では後宮があるのは内庭と考えたほうが良い。
広い庭に点々と小さな建物があり、その建物1つに妃が1人入ることになっている。
アディラーダに与えるのは、グラシードのハーレムの中で1番広く日の当たる部屋だった。
…グラシードは本当はこの部屋を、ラナジェータに与えたいと思っていた。
だが隣国メイオルドの愛娘が自分のハーレムに入ることが決まり、仕方なくアディラーダに譲ることに決めたのだ。
“私はグラシード様のお側にいられれば、どこに置かれようが平気です”
おとなしく優しい心の持ち主の寵姫に、グラシードの心は余計にラナジェータに傾いた。
故に。
(ったく!兄上が独身主義者でなければ、アディラーダ姫を兄上に押し付けたのに!…可哀想なラナ。だが俺の心はラナのものなのだから、心配しないでよ!)
アディラーダを正式に妃に迎えると聞き、さすがのラナジェータもショックを隠し切れなくて青ざめたのをグラシードは思い返す。
アディラーダを自分のモノにしたら、今度は文句を言わせないよう適当に相手をしなければならない。
(…確かに女って面倒臭い。兄上が言うわけだ)
グラシードは立場が凄まじく、弱い。
没落貴族の娘を妃にしたい。などと父と兄に言えば、言い負かされるに決まっている。
特に兄サーベージにはどんな卑怯な手をもってしても、勝てない。
アディラーダには恨まれるかもしれないが、これが王家の立場であるとグラシードは唇を噛み締めた。
そして部屋に自ら入り、アディラーダを手招きする。
アディラーダはニッコリと、邪気なく微笑み部屋に足を踏み入れた。
この様子を見ている者たちは、“これでこのアルバレードも、世継ぎの心配は無くなる”とホッとした。
しかしこの後、グラシードは予期せぬ恐怖に襲われることになったのだった。
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