ファシオミル

□人魚のいる湖
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「いやあ、よく来てくださった!ロテール殿!!お待ちしておりました。園遊会まで後10日程ですが、ごゆっくりなさってください。おい、誰か!コレットを呼んできてくれ!!」
にこやかに話をしていた子爵が侍女に声をかけると、侍女たちは固まった。
その異変に子爵もロテールも、事情は違うが少し渋い顔をした。
(あのバカ娘、また湖か!年頃になっても無邪気に裸で泳ぐなど、身の危険を解っておらん!!)
(…人見知りが激しいのか…?おとなしいのはまだしも、人見知りする姫は大変だ…)
ところが、すぐに城内が騒がしくなった。
「あ、姫様ですわ!すぐこちらにお連れ致します。少々お待ちくださいませ」
侍女の1人がこう言い、部屋を後にした。
そしてすぐ、応接間のドアが開かれた。
「申し訳ありません。身支度に少々時間がかかってしまいましたわ。…あの、ロテール様ですね?お初にお目もじかかります。コレット=レ=ルーデンスです。よろしくお願いいたします」
白金色の細い巻き髪を揺らし軽く頭を垂れ、ドレスを少し摘んで腰を屈めたその姿に、ロテールは目をパチクリさせた。
(………素性は姫君だったのか…。でも、そしたら簡単に口説くわけにはいかないな…)
とかロテールが考えていると、コレットは目を瞬かせクイッと首を傾げた。
「あの…、リッテア公爵家のロテール様…ですよね?わたくし、間違えておりまして…?」
不安そうな瞳の揺れに、ロテールは慌てて取り繕った。
「いや、申し訳ない。えぇ、僕はロテール=レ=リッテアです。初めまして。コレット姫があまりに可愛らしいのでビックリしたのです」
子爵がその言葉に目をキラリと光らせる。
ロテールは内心“ヤベ”とは思ったが、目の前にいるコレットはニッコリと笑っただけだった。
「まぁ、ロテール様はお聞きしたお噂通り、お口“も”上手でいらっしゃいますね」
こう言ってから、コレットはハッとした顔をして口を押さえる。
失礼なことを口走った!という感じだ。
ロテールはポカンとした後、つい笑った。
「他にはどんな噂があったのですか?」
と聞いてみると、コレットはひと際赤くなった。
「…あ、いえ、あの、その…」
モジモジと手を握ったり閉じたりする仕草に、ロテールは面白くて仕方ない。
「…まぁ、自分の噂など尾ひれ背びれが付きまくっていて、驚くことばかりですが」
そう言ってコレットにウィンクをすると、コレットは目を丸くした後クスクスと笑った。


「…あの、お茶をお持ちいたしましたわ。他に何かご入用はありまして?」
客用の部屋に案内された後、すぐに扉を叩かれ開けるとコレットだった。
「…えっと。姫君がお茶運びなどなさらなくても良いのではないですか?」
子爵の差し金かと思い、暗に侍女にさせたほうが。という含みを持たせるとコレットは首を振った。
「時間があるのはわたくしだけなのです。今は冬に向かう大事な時期。侍女たちも大変忙しいのです」
ロテールは目をパチクリさせる。
コレットは他の地域の人には通じないと解り、噛み砕いて説明する。
「この子爵領は冬には外界より閉ざされてしまいます。そのため今のうちに食料の確保保存、それから薪や炭などの凍えないための燃料も必要なのです。そして領民の湖の近くの集合住宅への引越しと、わたくしたち子爵家の湖畔の別荘への引越しの支度もありますの」
ロテールは首を傾げる。
「湖の近く?水の近くは寒いのでは?」
コレットは笑みを浮かべた。
「…うふふ。ロテール様はわたくしの園遊会のエスコートの後、お忙しくていらっしゃいます?」
ロテールが首を振るとコレットは嬉しげにニコニコする。
「では、冬の初めまでこちらにいらしてください。面白いものをお見せしますわ!本当は真冬の方が良いのですが、そうすると春まで領内から出られなくなりますから雪が降る前にしましょう!!」
「…何を、です?姫君」
ロテールは楽しそうなコレットに、自分も楽しくなって聞いてみると内緒。と言われ肩を竦めた。
「では、楽しみに待ちましょうか…」
コレットは軽く笑い会釈して、客間を出たのだった。
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