紅い石

□戦争
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人の走り回る音がする。
鎧の擦れ合う音が、最奥の部屋である私の部屋まで響く。

ガチャ、ガチャ…。

王だ…!
私は慌てて調度品の中に、錬金釜を隠す。

コンコン、キィ。

申し訳程度にノックをして、入って来た。
「リーウィ。城内の事はお前に任す。俺は一月、留守にする。…寂しいかも知れんが、おとなしく待ってろよ?土産にサンドドラゴンでも、持って来よう…」
痛いくらいにキスをされ、私は頷いた。
王が居ないのは好都合。
一月もあれば、錬金術の調合を進ませる事が出来る。
…材料さえ揃えば、1度造った『賢者の石』など、簡単に複製出来るわ。
王は、何度も私を抱きしめた…。


「王妃様?何をなさっていらっしゃるのですか?」
ミイネが、不思議そうに声を上げる。
初めて錬金術を見たのだろう。
何だか解らなかったらしい。
私はにっこりと笑う。
「錬金術よ。…王には内緒よ?何故なら、傷薬を造るのですもの。王が傷を負われた時のためよ。…いくら不老不死でも、傷を負えば痛いのよ」
…嘘をペラペラ並べ立てると、ミイネは笑って頷いた。
…素直な子だわ…。
「あの…、王妃様。出来上がりましたら、私にも下さいましね?…彼に渡したいのです」
「…え?あ、もちろん良いわ…」
本当に傷薬を造らなければ、ならなくなったわ…。


軟膏にしよう。
水薬は簡単で良いけれど、すぐに無くなってしまうもの…。
…ところで。
ミイネの彼って誰かしら…?
私は、少し好奇心に駆られる。
城内でも、かなり評判の良いミイネが選んだ彼…。
………結婚とか考えているのかしら?
王宮から去るのは寂しいけれど、よく仕えてくれたもの…。
プレゼントとか考えなくては…。
私はミイネに聞いてみた。
「…ミイネ。彼ってどなたかしら…?結婚とか、考えているの?」
ミイネはほんのり赤くなった。
「…はい。下級兵士なんですけれど、実は幼馴染みですの。…私が王宮に上がったので、追いかけて来てくれたのです。ですからもうそろそろ…。…リーウィ様と本当は離れるの、辛いですわ…。お優しくして頂けたし、まだ、陛下と仲直りされていらっしゃらないようですし…。心配です…」
私は少し困ってしまう。
王と仲直り…。
…仲良かった事など、無いのだけれど…。
私は苦笑した。
「…ミイネ。私の事は良いわ。…自分の幸せだけを考えてね…?」
ミイネは寂しそうに頷いた…。


半月後の事。
湯浴みの最中に、兵士が部屋に駆け込んで来た。
いつもなら不作法を許さないミイネが、許可を与える。
…私と同じ様に、嫌な予感がしたみたい…。
「王妃様!お寛ぎのところ、申し訳ありません!!ミイネは居りますか?!」
「わたくしならば、ここです!何かありましたの?!」
兵士は赤いバラを一輪、差し出した。
ミイネが口をパクパクさせる。
「…もしかして、そのバラは…?!」
私が問うと、おとなしそうな兵士が下を向いた。
「彼は最前線に送られ、亡くなりました…」
嘘よ!そんなハズ無いわ!!だって…。イトイ国の始めた戦で、このヴァラッカ国の兵士は、援護でしょう…?」
ミイネがへたり込む。
私は彼女を支え、話を聞いてみた…。
「…陛下が…。ラオス王が、イトイ国王に兵士を貸すと…。その中にザキトが入れられて…。開戦した途端、弓矢を射掛けられて…」
嫌ぁぁぁぁぁ〜〜〜!!
…ミイネの悲鳴が、長く長く城内に響いた…。


手伝って貰い、宿居の侍女の部屋に気絶したミイネを寝かせた。
…………………………。
私はずっと考えていた。
何か変だわ…。
唇に人差し指を当てた。
ラオス王が戦を裏で操る…。
これは、解る。
だけど、最前線に兵士を送る必要はあったのだろうか…?
………今のところは理由は無いわ…。
イトイ国は蛮族の王と言われるだけあり、戦事には強いらしい。
始まったばかりだから、食糧難になってる訳でも、人が少ない訳でもない…。
それなのに犬死にの様に、最前線…。
…?!
まさか…!
ミイネが結婚を考えている事を王が知って、恋人を最前線に…?
ううん…。王にメリットが無いわ。
あの男は自分に都合が良くなければ、何もしないハズ…。
なら、何故…。


「相変わらず可愛らしい仕草をする…。一月も俺から離れて寂しかったか?」
寝台で私を抱きしめる。
「…王。何故、最前線に兵士を送ったのですか?」
聞いてみると、にったり笑った。
「ミイネが居なくなったら、お前は寂しいだろ?…男が死んだ方が良い…」
…!!
ごめんなさい、ミイネ…。
私のせいだったの…。
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