紅い石

□死を望む王妃
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私はその夜、塔の最下層の秘密の場所にいた。
何故、秘密なのかというと、私しか知らないから。
塔を支える柱の1つの陰に、亀裂がある。その亀裂の向こうは、小さな空洞だった。
小さい頃から、この塔しか知らない私の遊び場…。
大人、いや男の人には入れない空洞は、最後の神の錬金術士と呼ばれる私には、必要な安らぎの場所だった。
"早く『賢者の石』を造らなくちゃ"
私の頭の中はそれだけだった。


夜半を過ぎた頃だと思う。
塔の中を幾人かが、走り回っていた。
その時の私は、珍しい事もあるもんだと思った。
薄暗い"錬金術士の塔"の中を走り回る者など、滅多にいない。
それが真夜中に複数で走り回っているなんて…。
実験ノートの記録を見ながら、新しい素材で新たな材料を造り出しながら、何となく縮こまった。
何故か気付くと
"見つかりませんように…"
…お願いしている自分がいた…。


次の日の朝早く、私は塔の最上階に昇った。
錬金術士が太陽を見られるのは、塔のてっぺんだけだった。
私は冷たく清らかな空気を、肺いっぱいに吸い込んだ。
夜中の錬金釜の薬も、素晴らしいデキだった。これなら黒金(真っ黒の純金)を精製出来るハズ。黒金が精製出来たら、貴重なアントリオンの肝を潰して混ぜ合わせて…。
また、誰かが私を見てる…。
王宮を振り向くが、小さな塔とは違い、たくさんの部屋があるから、誰がどこから見てるのか解らない。
私はまたいつものように、気にしない事にした…。


「なぁ、上(地上の事)でまた人が死んだって話なんだが…。理由なんだろな…?」
仲間の年配の錬金術士たちが話していた。
「王が殺したか、殺させたか…。どうせ、気にいらん事があったんだろ?…しかし、なんで機嫌悪いんだ?一昨日、リーウィを…」
…私?
「お喋りが過ぎると、万が一、陛下に聞かれた時、文字通り首が飛ぶぞ?黙った方が良い」
錬金術士長に窘められて黙ったが、気付くと周りの仲間に眺め回されていた。
私はその時16歳。恥じらいも人並みに、きちんとあった。
嫌な視線だと思い無視した。
「…ふ〜ん。錬金術の仕事には、きちんと出ているな。…やはり、お前等。探してなかったな?」
ラオス王が突然、2人のお供とやってきてこう言葉を掛けると、いきなりお供を斬り捨てた。

ビュッビュ!!

「ギャアァァ!」
「ガアァ!!」

痛みに顔を歪め、苦しげな顔をして息絶えた。
斬った2人の血が、王の服に飛び、腕を流れる…。
顔に飛んだ血を拭わずうっすら笑い、私に血だらけの手を差し出した。
「リーウィ。服を一昨日送ったんだが、届かなかったようだな?明け方まで、お前が来るのを待っていたんだが…。この従者たちはお前を呼びに行かなかったようだな。また9日間、違う女で我慢しなければ…。今度はちゃんとした従者を、迎えに寄越すから、寝台に上がれ」
そして、斬り捨てた従者たちをスタスタと"踏んで"出て行った…。
………私は王の寝台に、上がらなくても良いという話じゃ、なかっただろうか…?
…どちらにしろ私が部屋に居ず、王の寝室に行かなかったために、2人が死んでしまった…。
…いや、殺した?
………ショックだった…。


シュンシュンシュン…!

キュルルルル…!!

上手くいった!
これでこのまま後2日、成分がきちんと融合すれば…!
寝ないで頑張った甲斐がある。
『賢者の石』が…。

コンコン!

「錬金術士リーウィ・ディーヴァ。陛下がお呼びです。贈られたドレスを着て下さい。陛下の部屋に案内します」
新たな錬金術が生み出される喜びが、たちまち萎んで行く…。
9日間なんて、あっという間にきた。
と、いうか毎日王が来て、私を見張っていた。
「どうだ?このドレスは…?お前は肌が白く赤毛だから、ワインレッドが似合うと思うが…。…気に入らないなら、ドレスを作った仕立屋を罰してやろう。お前が気に入らない物を作るとは、酷いからな」
私は気に入ったと言うより、他はなかった。
「そうか。気に入ったんだな?ならば、そのドレスで俺の部屋に来い。…そうだ。下着も用意しないとな。後で贈ろう」
濃いピンクのシルクの肌着は、肌にピッタリ吸い付くので、落ち着かなかった…。
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