ファシオミル

□薬を操る聖女
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『夫である男神様は言いました。
「可哀想だな。皆の取り合いになるぞ」
妻である女神様は、姿形は綺麗な女性になったが幼い心にはどういう意味か解りませんでした。
不思議そうに夫を見上げます。
「この赤子たちはお前の心を持っているのだろう?そして俺たちと同じように左右別の瞳を持っている…。人間たちには自由を与えた。善心も悪心も…その人物の生き方に拠って決まる。善心を持つ者に出会えれば幸せになれるだろう。だが、悪心を持つ者に出会ったら…」
女神様は驚き、ご自分のなさったことを嘆き悲しみました。
しかし、作り出したご自分の分身たちを消し去るのは忍びないと泣き崩れました。
女神様が泣くと、3人の赤子たちも涙を流して悲しみました。
すると精霊たちが女神様にこう言葉を掛けられたのです。
「女神様。お泣きにならないでください。私たちが貴女様の愛娘をお守り致します。貴女様の愛娘が誰かと添い遂げるその日まで、私たちが必ずお守りしますから…」
男神様は少し何かを考え、女神様の娘を守るべくご自分の分身を3人作られました。
「俺の分身には左右別の瞳を与えず、善悪両方の性質を与えた。娘たちを悲しませるのも喜ばせるのも、育てた人次第だ」
そして3人の息子を神の分身であると悟られないように、散り散りに世界に放たれました。
その後男神様は3人の娘たちの1人抱き上げ少しあやした後、神の力が残り世界の舵を取る北大陸のある王家に与えられました。
もう1人も抱き上げ頭を撫でると男神様の加護篤い、西大陸の平和を勝ち取ったある男に与えられました。
最後の1人を抱き上げ頬に口付けると女神様の加護篤い、東大陸の優しく善良な商人に与えられました。
3人の娘たちは、それぞれ愛らしく素直な心を持った女性に育ちました。
だから人々は東大陸の娘たちのことを“女神様の娘たち”と呼ぶのとは別に、彼女たちのことを“女神の愛し子(めがみのめぐしご)”と呼ぶようになりました。
彼女たちには精霊たちが味方しています。
一国を栄えさせるのも滅ぼすのも、彼女たち次第です。
人々は彼女たちの想いに耳を貸しましょう。
何故なら、彼女たちは“幸せ”をよく知っているからです』
女神の愛し子より「世界に下りた娘たち」の章より、抜粋



『古王国は滅びました。邪神ダーク・ケルメスの手によって…。しかし、古の王国は世界の平和のために存在していました。滅びてもその役目が終わることはありません。その人々の血の中に必ず、黒き髪と紫の瞳を持つ者が現れます。その色を持つ娘は“幻の姫”と呼ばれます。精霊たちを従わせ、人々に平和をもたらします。強き心を持つ“幻の姫”は、前進する者。立ち止まることは許されていません。激しく戦う心が“幻の姫”には必要なのです』
幻の古王国、『幻の姫』の章より、抜粋



紺色の髪の娘は眉間に皺を寄せた。
自分の部屋に忍び込んできて寝巻きを脱ぎ、こちらの寝巻きまで脱がそうとしてきたので、急所を膝で打ち尾骶骨を蹴り飛ばしたのだ。
フラフラなのでベランダの窓を開けてやった。
すると男はベランダに出て、うずくまり気絶してしまったのだ。
素っ裸でお尻を上げた格好は、大変醜い。
紺色の髪の娘は大貴族の養女だったので、男の裸を見たことがない。
だから興味を持ってジロジロ見て…。
気持ち悪くなり窓を閉め、ついでにカーテンもしっかり閉めた。
紺色の髪の娘は思った。
(…やっぱりあたし、ここにいちゃいけないんだ…)
そして顔を伏せた。


「あの子が結婚をしたら、今度はお前の番ね。でもあの子が王家に入るなら、お前はこの国を出ないと…。良い人を探しましょうね」
祖母イリアに声をかけられ、紺色の髪の娘は顔を伏せた。
…この国を出たくはないのだ。
ずっと思っている人がいるのだから。
妹のことは大好きだ。
だがそれと同時にとても憎い。
憎いのに悲しい。
妹は心を持つ“人形”だったからだ。
でも…。
(羨ましい…)
ずっと待ってた想い人は、妹に求婚した。
妹はハッキリと彼に向かい、嫌い。と言った。
自分たちを育ててくれた家族は、妹と求婚者の結婚をとても喜んだが。
頑なな妹に、今日は無理矢理結婚を迫るのだという…。
“妹が了承しない場合、あたしがいた方が良いでしょ?”と祖母に言った途端、“トンデモナイ!”と怒られ自分の部屋に戻ったのだ。
しかし朝、義弟が妹の部屋に様子を見に行き大騒ぎになった。
求婚者は裸で妹の部屋のベランダで気絶をしていて、妹自身の姿は消えていたのだから。
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