ファシオミル

□マーダゲード
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<精霊王国王妃リリアナ様はおっしゃいました。
『リュシィール・ティーナ聖王妃を皆で真似しなくても良いのです。人は総て個々に存在するものです。どうか、その個性を大切になさい』
精霊王国国王リューイ様はおっしゃいました。
『心を包み隠したところで、真に愛すべき者に会える訳ではない。言葉を紡ぎ戦わせてこそ、信頼が生まれる。人を愛すならば、ただ有るがままに生きよ』
そのお2人の言葉により、人々は自由に振舞うことを覚えた。
フィーファの指南書、世界を救いし精霊王国リューイ王とリリアナ王妃の言の葉、[個々の人格の書]より抜粋>



「フィーファ。どうだ?レバルタス伯爵家のジュールだ。なかなかいい男だろ?」
兄様が連れてきたのは、遠い親戚に当たる“兄様”そっくりのスカポンだった。
…兄様。
あんた、ちょっとアブナイわ。
母親の違う2つ年上の兄は、あたしを随分大切にしてくれている。
有難いとは思うけど自分にソックリってのは頂けない。
はっきり言って、兄様ってあたしの好みじゃないし。
あたしは心の中を悟られぬよう、いつものようににっこり笑う。
「兄様、レバルタス伯爵家ジュール様。ごきげんよう。あたしに何のご用事ですの?」
兄様はガックリと肩を落とす。
「…フィーファ。聞いてなかったのかい?お前のお婿候補だよ。…で、どうかな?」
あたしは口の端が引き攣らない様に注意しながら口を開いた。
「え〜?!あたしはまだ15ですのよ?結婚など早いですわ。…兄様はそんなにあたしをお嫌いですの?」
少し首を傾げ悲しそうな顔をすると、兄様は慌てた様に首と手を一緒にブンブンと振った。
「私はフィーファのことが心配なんだ。父上や母上は大丈夫だとおっしゃるけれど、フィーファは姫の中の姫!母親は違えど可愛い妹を心配しない兄などいないんだ」
…鬱陶しいけど、ここは嬉しそうな顔をしなくちゃ。
「有難うございます、兄様。ですけれど、皇妃様に相談しませんと怒られてしまいますわ。ただいまより皇妃様にお話を伺って参りますわ」
すると、兄様はビッと顔を引き攣らせた。
「え?母上??あ〜、フィーファ。別に相談しなくても」
「では失礼しますわ、兄様」
皇妃様の事を持ち出した途端怯えた様相を見せた兄様の言葉を遮り、サッサとその場から撤収する。
兄様は皇妃様が苦手だものね。


中庭を突っ切り、毛足の長い赤い絨毯の敷かれた廊下を幾つも曲がり、階段を優雅に上る。
侍女や女官に駆け上る姿を見られたら、大変だからね。
結構これでも苦労してるわ。
3階分を上がって東側の大きな扉の前で立ち止まり、隠しからガラスの鈴を出してチリリンと鳴らす。
すると部屋の中から扉が開かれた。
「ごきげんよう、フィーファ姫様。どうかなさいましたかな?」
…あ、嫌ミンだ。
あたしは、嫌な顔を見せずおっとりと笑った。
「ごきげんよう、ハンミリット侯爵様。父様がどうかなさいまして?兄様でしたら、庭にいらっしゃいましたわ」
ドレスを摘んで挨拶すると、侯爵は小馬鹿にしたように鼻を鳴らして腰を屈めた。
どうせまた揚げ足とって、嫌みを言うつもりなんでしょうけどね。
「…フィーファ姫様。貴方様は“一応”皇家の姫なのです。それなのにそのドレスの摘み方はなっておりませんな。腰を屈めるのも、もうちょっと優雅になさいませんと。…皇女が行き遅れるのは、恥さらしの何者でも有りません。いい加減ラベルト卿に、良いお返事をなされたら如何です?皇女には丁度良いお相手だと思いますよ」
…あたしは“一応”か!
それにどこが丁度良いのよ!!
ジジイじゃないか!
ムカムカするけど、ガマンガマン。
「…あたしのお相手は、皇妃様が選んでくださるとおっしゃって下さってますのよ?」
ニコニコしながらあっさり断ると、嫌ミンは渋い顔をした。
「…イリスネアの気の強さに敵う者などいないわい。早くフィーファを皇家から出さねば気が気でないのに。しかし、イリスネアに逆らえば…ブルブルッ!!もうちょっと待つか」
そうそう。
皇妃様に逆らっちゃいけません。
…イリスネア皇妃様って、きっとお小さい時からかなり気が強かったんだろうなぁ。
相手が父親でも黙っちゃいなさそうだしね。
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