紅い石

□戦争
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「悲鳴…?」
王の裸体の上でいつもの様に休んでいると、金切り声が聞こえた気がして目を開けた…。
滑り降りると王はいつもの様に目覚め、離すまいと抱き寄せてきた。
「…リーウィ。まだ夜中だぞ?人の部屋に入るのは失礼だし、何より誤解される…。許さんぞ?」
ベッドに引き戻され、押し倒された。
「…元気だな、リーウィ。もう一度楽しむか…」
私はまた、ジタバタと暴れる。
抵抗しても無駄なのは解っているが、黙っておとなしくしているのも癪だった。
「リーウィ。俺を抱け。でなくば、いつまでも終わらんぞ?」
「ううっ!」
呻き声を上げたところで王が許してくれるハズもなく、最後まで正気を保つ様努力した。
王に逆らえるのは、このくらいだから…。
…いつまで、こんな生活が続くのだろう…?
早く『愚者の石』を精製しなければ…。


中庭を散策した。
花を見てる振りをして、集めているのはテライレと言われる植物。
錬金術には欠かせない薬の材料。
…これは種さえあれば増えるから、楽だわ…。
塔の近くをうろつくと、望んだ分だけ手に入った。

カサッカサッ…。

人の歩く音だと振り返ると、それはフラフラとしたラティーラ王妃だった。
いつもきちんとした姿だったラティーラ王妃が、髪も梳かさず昨日の白いドレスのまま歩いている。
…ドレスは破かれ、ボロボロで下着も肌も見えていた。
かなり異常な姿で、思わず声をかけた…。
「あの…。ラティーラ様…?」
ラティーラ王妃は焦点の定まらない目で、私を見た。
少し顔が腫れていた。
そして首などに唇痕が付いていた。
まさか王が昨日言ってた事って、本気だったの?!
自分の正妃を他国の王に、下げ渡すなんて…!!
…昨日の夜中の悲鳴は、お妃様方のものだったんだ…。
ラティーラ王妃の瞳に意思が顕れた。
「…お前が…。お前なんかがいるから、わたくしは陛下の正妃でありながら、他の男の慰み物にならなければならなかったのよ…!お前も陛下の妃ならば、王のために身体を売っておいで!!」
腕を物凄い勢いで捕まれ、引きずられる。
「ラ、ラティーラ様?!」
ラティーラ王妃は私を振り向きもせず、ご自分の部屋に向かう。
「…あの蛮族の王は、まだ楽しみ足りないなどと言ってましたわ。わたくし、明け方まで酷い屈辱を味わいましたの…。あの男が湯浴みを希望した隙に、やっと逃げられましたのよ…。…ねぇ、リーウィ。あなたわたくしの代わりをなさってね?陛下が溺れる女ですもの。あの男も、すぐ満足するでしょう…!」
ラティーラ王妃の部屋に放り込まれ、慌てて扉に向かう。
「ラティーラ!一緒に入れと言っただろう?何故一緒に…?リーウィ側妃?何故こちらに?…あなたは今日、ご正妃の戴冠式がおありでしょう?お休みになられた方が宜しいですよ?…今宵ラオス王が愛でる玉体が、正妃になるのを見届けさせて頂きますよ…」
イトイ国王ハーベルの目に怪しい光が灯り、一歩踏み出した。
私は恐怖を感じて後ずさる。
「きゃあぁぁ!お止め下さい!!」
扉の外から、ラティーラ王妃の悲鳴が聞こえた…。

コンコン!コンコン!!

「イトイ国王!リーウィがこちらにいるハズだ。渡して貰おう…!」
「…お迎えですね。今宵、あなたがどの様にあの王を虜にしたのか、拝見させて頂きましょう…!」
扉を開けると同時に、ラオス王がラティーラ王妃をイトイ国王の胸に押しつけた。
そして私を抱きしめる。

ビリビリビリ!

「いやぁ!!」
布を裂く音と悲鳴。
私には慣れ親しんでしまった、音だった。
「イトイ国王。随分元気だな?…ラティーラはなかなか具合が良いだろう?」
「本当に…!…しかし今宵、新王妃が誕生する儀式なのに、王妃候補をフラフラさせてて宜しいのですか?」
「…リーウィは受け入れるだけだ。あまり関係無いだろ?」
「…なるほど…。しかし私としては、嬉しい立会いですな…」
「…リーウィの肌を拝む機会なぞ、もう無いだろうからな…。イトイ国王。目に焼き付けておかれるが良かろう?」
王とラティーラ王妃の部屋を出た。
…中から悲鳴が聞こえる…。
だけど今までの会話が引っ掛かり、余裕が無かった…。


「これを噛め」
寝台の上で王に渡された物は、エミルの葉だった。
嫌な予感がして、首を振る。
「…お前の喘ぎ声まで、連中に聞かせるつもりは無い!噛め!!」
無理やり口を開かされ葉を口に詰められて、頭がぼんやりとして何も解らなくなった…。


次の日から私は、王妃と呼ばれる様になった。
立会人が私が王を受け入れたと証言し、認められたから…。
他人に伽を観察されてまで、王妃になんてなりたく無かった…。
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