紅い石

□死を望む王妃
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『誰か私を殺して…』
私はいつでもどこでも誰かを待っている…。


ハァハァと耳元で、荒い息使いがする。
強い腕で私を組み伏せる『夫』は、私の思いなど平気で踏みにじり、身体を重ね合わせ、行為を気の済むまで行う。
私は、何も考えまいと目を瞑った。
気持ちとは裏腹に、私の身体が一瞬硬直し、跳ね上がった。
「くうっ!」
目の前が真っ白になり、後は暗闇に落ちてゆく…。


500年前、私は周りより腕はあるものの、普通の錬金術士だった。
私の仕事は、不老不死の術、『賢者の石』を作成することだった。
王は野心家で残虐なところがあり、気は進まなかったが研鑚を重ねた。
…私は開放されたかった。
暗い暗い塔の地下から出たかった。
「…お前、なかなか可愛い女だな。よし!今晩、俺の伽をしろ。錬金術士がこの俺の側女となれる事は、普通なら無いぞ!?」
ある時、王に声を掛けられ、今と同じように拒んだ。
「陛下。この娘は錬金術士の要です。夜伽をさせれば、昼間の研究に支障をきたすおそれがあります」
錬金術士長の言葉に王は口を噤んだが、私を眺め回す視線が鋭くなり、こう言葉を発した。
「錬金術士というものは、小娘の力を借りないとダメなのか?出来損ないだな!…ところで、お前の名は?」
「私はリーウィ・ディーヴァと申します」
フードつきの黒のマントを、軽く摘んで会釈する。
この時私は、王が本気で私を妻の1人(今では私は王妃であり、望んではいないが、妻は私1人だけ)にしたいと望んでいたとは思わなかったので、平然と挨拶をした。
「リーウィか…。休みはいつだ?」
私は王の言葉に首を傾げる。
休みなどなかった。
ラオス・エンフォール・ド・レシューム王は、錬金術の研究を休むなと言っていたハズ…。
「…そういえば、休みをやってなかった。…よし!明日は休みにしろ。そうすれば、今夜、俺の伽ができるだろう。こんな暗いマントは脱いで来い!いいな?」
王は私のマントを毟り取った。
マントの下は黒灰色のストンと落ちた、飾りの無いローブ。
王はムッとした顔をして、ローブも剥ごうとした。この下は下着なので、慌てて逃げようとしたところ
「こんな服で、俺の寝台に上がられても困る。いくつか色っぽいドレスを用意させるから、サイズを測らせろ!」
言うなり私の腕を掴み、近くの部屋に入ると、内側から鍵を掛け、ローブを毟り取ろうとした。
私は恐くなり、ローブを押さえて脱がされまいとした。
王は私の手を一括りにし、左手で高く揚げた。半分ぶら下がるような格好になり、震える私に乱暴に、そして深くキスをする。
そして右手でローブを剥いだ。
あんな恥ずかしかった事はない。
うちは貧しかった。だから下着だってちょっとしたものだ。布を巻いただけの胸と、布を巻いただけの腰。
王は一瞬驚いた顔をしたものの、瞳にギラギラと不穏なものが見え始めた。
そしてもう一度手を一括りにされ、ぶら下げられた。
右手を背中に回し、布の結び目を解く。
ヒラリと布が落ちると、思考を停止していた頭が回転し、自分の置かれている状況に悲鳴を上げた。
「いやあ!!」
ドンドン!
ドンドンドン!!
「陛下!陛下!!リーウィをお戻し下さい!錬金釜が…!!」
ソファに横にされ、王に伸し掛かられていた私は
「陛下!私は今、仕事中です!!後生ですからお赦し下さい…!『賢者の石』を造らなければ…!!」
王のはだけた胸を突っ張りながら言うと
「……………赦してやるには条件がある。『賢者の石』は2つ造れ!…2つ造れば、1つに万一の事があっても大丈夫だろう。それを約束しなければ、今お前を奪う!!」
身体を無理やり広げられ、直に肌に触れられた私は、気持ち悪さに足をバタつかせ、涙を流しながら承諾の返事をした。
「…それから、俺は気が長くない。『賢者の石』が早く出来なければ、どこででも抱く!いいな?!」
王の身体の下から開放された私は、慌ててローブを纏い、部屋から逃げた…。
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