Tales of Graces

□右手にスコップ
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「アスベル!」



名前を呼ばれて振り返ると、ソフィが何かを押しつけてきた



「ああ、ソフィ。一体どうしたんだ」

「お花がね、咲いたの。そしたら種ができたから、一緒に植えよう?」



ソフィの手からぱらぱらと落ちる黒いものが、どうやら種らしい。

ソフィは昔から花が好きだったからな。
まあ、植えるのはいいとして、問題があった。



「植えるのは構わないけど、なんでそんなに多いんだ…?」



俺が受け取った種とは別に、ソフィが抱える袋の中に花の種らしきものが見えた。
それが明らかに、屋敷の外の花壇から採れる種の量ではなかったのだ。



「みんながくれたの」

「みんなって?」



ヒューバートにシェリアにじいやにおばさんおじさん…聞き出したらとキリがない。
というかなんでみんなソフィに種を渡すんだ。
そんなにたくさん植えられるほど、俺の屋敷は広くない。



「わかった。今回はこれだけにしよう」



今にも俺の手から溢れ出しそうな種に、ソフィの視線を向けさせる。



「これだけでも十分だろ?」

「……やだ」



え。と思わず声に出してしまった。
ソフィのわがままなんていつ以来だろう。…可愛い。



「植えてもらえないお花が可哀想」

「たしかに。でもな、みんな植えてしまったら、栄養を奪い合ってみんな咲けなくなってしまうぞ」

「………」



理由らしい理由を述べるとソフィは黙り込んでしまった。
しかし、こればかりはどうしようもない。



そろそろなだめてやろうと思い、ソフィの顔をちらと見た途端、俺はぎょっとした。
ソフィは目いっぱいに涙を溜めてそれを必死にこらえていたのだ。



「ちょっ、ソフィ、その、ごめんっ」

「アスベルのばかぁ…」

「…ごめん」
表面では謝っていたが、上手く呂律の回らないソフィの言葉に悶えていた。

俺、不純だな。



「ううう、」



ついに泣き出したソフィに、俺の心の障壁は粉砕した



「わかった。わかったよソフィ。植えよう全部」

「…ほんと?」

「ああ、本当だ」

「でも、どこに…?」



ソフィの問いに笑って答えた。



「種をくれたみんなのところに、だ」

「うん!」



ソフィは喜んでいた。
花を植えられることに対してはもちろん、種をくれた人たちにもお礼ができるから。

しかし俺には別の目的があった。
ソフィに大量の種を押しつけた奴らに、プレゼントという名の仕返しをするためだ。























「〜♪〜♪」

「お、ソフィ。いっぱい植えたなあ〜」



そういうとソフィは嬉しそうに笑いながら頷いた。
この笑顔が見られるのなら、俺はどんなことでもしてしまいそうだ。
たとえそれが良からぬことだろうと…


そう、ちょうど今のように。


青髪の青年とピンク髪の女性が妖しげに笑みを浮かべながらこちらを見ている。
俺はそれを無視しながら、その女性の家の脇でソフィと共に活動をし続けた。


その後、俺だけが厳重に注意をされたのは何の嫌がらせだろうか。

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