Tales of Graces

□白うさぎを追いかけて
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「教官、今日はどんなお話をしてくれるの?」

「そうだな、じゃあ今日は…」


皆が寝静まった真夜中。
宿屋の一室にて、ベッドにもぐり込んだソフィにマリクは毎晩恒例となった"お話"をしていた。


「昔々、小さな女の子がいました。女の子は花が好きで、よく丘へ出かけていました」

「私もお花好き。だからずっと花が咲いてるラントの丘も好き」

「そうか、ラントにもそんな場所があったな」


ソフィの小さな問いかけに優しく答えて、教官は話を続けていく。


―…そしてある日、女の子はその丘でうさぎを見つけました。いや、正しくはうさぎに見つけられたのです。

うさぎは「おいで」と手を差し出します。
女の子がその手を受け取ろうとした瞬間、うさぎは急に振り返って丘を下り始めました。

「あ、待って」

うさぎを追うように女の子も下っていきます。
うさぎを見失わないように、女の子は夢中で走りました

そしてうさぎと女の子は、女の子の住む村に着きました。

「うさぎさん、ここは私の村よ。よかったらゆっくりしていってね」

息を切らしながら女の子がそう言うと、先ほどまで確かにそこにあったうさぎの姿はありませんでした。

「うさぎさん…?うさぎさん、どこ?」

女の子は辺りを見回しましたが、やはりうさぎは見当たりません。
女の子はなんだか悲しくなって俯いてしまいました。


すると肩をポンと叩かれ、名前を呼ばれました。

「一体どこに居たんだ?探したぞ」

それは女の子の大好きな人でした。
女の子は嬉しくなってその人にしがみつきました。

「もう離れるんじゃないぞ?」

「うん、わかった」


こうして女の子の不思議な体験は終わりました――



話を終えたマリクは、ソフィの顔を覗き込んだ。
するといつもはしっかり閉じられている紫の瞳が、今日は珍しく見えていた


「うさぎさん、アスベルみたいだね」

「ん?どうしてそう思うんだ?」

「だって女の子は、危険な丘に1人で行ったんでしょ?だからうさぎさんは女の子を安全な村に帰してあげたの」

「それがどうしてアスベルと似てるんだ?」

「私のこと、ずっと守ってくれてるの。うさぎさんとおんなじ」


ソフィは優しく笑ってそう言った。
マリクも吊られて、自然と口元が緩んだ。


「そうだな。アスベルは俺たちみんなを守ってくれている。まるで俺たちのうさぎさんだな」


うん、と嬉しそうに笑うソフィにマリクは布団をかけ直して、もう遅いから早く寝ろと優しく言う。


「教官、また明日ね。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


そしてマリクは静かに部屋を出る。
今晩はどこか心が温まった気がして、いつもと違うにやけが止まらなかった。

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