Tales of Graces

□宿屋の死角
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ここはバロニアの宿屋。

厠には、男3人が肩を並べていた。


「なあアスベル。シェリアとはどうなっている?」

「シェリアですか?特には何もないようですが…?」

「マリクさん、兄さんにその手の話は無駄ですよ」


そうだなと笑うマリクをよそに、頭の上にハテナマークを浮かべるアスベルにヒューバートはため息をついた。

まったく、いい歳だというのにこの人は何をしているんだ。


「俺の教育ミスだろうか。不甲斐ない」

「いえ、兄さんが腑抜けなだけですよ」

「ちょっと待て。何の話だ」

「「(兄さんが)(お前が)どうしようもないって話だ」」


そんな2人して言わなくても…としょんぼりするわりには、きっと未だに意味を理解してはいないように見える


「よし、俺は先に出る。アスベル、お前はもっと成長するべきだ」


そうとだけ言い残して、マリクはすたすたと厠を出て行った。

ヒューバートも用をたし、厠から出ようとした。


「それじゃあ兄さん、僕もお先に「待て」


ぐいっと強く腕を引っ張られてバランスを崩してしまった。


――転んだ


そう思った。

しかし恐る恐る目を開けると、僕は兄さんに抱かれるように支えられ、兄さんの顔が目の前ににあった。

2人の間は10センチばかりしかない。近い。近すぎる。


「すみません兄さん、今離れま「なあヒューバート」


僕の言葉を遮って兄さんは喋り出した。


「俺さ、実は…」


何ですかと僕が言葉を発する前に、兄さんは僕の口をふさいだ。


「〜〜っ、んふぁっ……な、何をするんですか…っ!あなた、正気ですかっ?!」


あまりに急すぎた事態に僕はついていけていない。

何が起きたのか。

どうしてこうなったのか。

僕はただ、兄さんを睨んだ。

しかし兄さんはニィっと笑っていた。


「ヒューバート。俺さ、シェリアなんてどうでもいいんだ」

「…なぜ、ですか」


そんなの決まってると言わんばかりに兄さんはまた僕を抱き寄せた。


「ヒューバートがいいんだ」


耳元で囁かれたその言葉に顔が熱くなった。

こんなに真っ赤になったところを今の兄さんには見せたら、何をされるかわからない

だから僕は俯いて顔を隠した

そんな僕のことなど気にせずに兄さんは僕の顎を片手でぐいと押し上げる

瞬間、兄さんと目が合う

やっぱり恥ずかしくて顔が更に熱くなる。

早く此処から去りたい。




だけど、兄さんといたい。


「ヒューバート…」


名前を呼ばれて思考がショートした。



僕は…




僕も……兄さんがいい





2人はしばらく見つめ合ったあと、唇を重ねた。

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