Tales of Graces

□変わらないもの
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「ヒューバートっ!」


ポンッと肩を叩かれて振り返ると、いつになくニコニコとしている兄さんがいた


「兄さん…何ですか?僕は今忙しいんです」


別に忙しいわけでもなかったが、兄さんと遊んでるほど暇でもなかったので軽く流そうとした


「ほんのちょっとだから!頼む、ちょっとだけ付き合ってくれ」


お願いします、と兄さんに手を合わされて断るのも悪いと思い、渋々聞くことにした


「わかりましたよ。…で?何なんですか?」

「サンキューな!実は…」


この実は…から延々と話をされて30分。

結局のところ何をしたらいいんですかと聞くと、シェリアをあの1年中花が咲く裏山に連れ出したいらしいのだが、なかなか誘う機会も勇気もなく、困っているという。

だから僕に何か良い提案をしてほしいらしいのだが、なんだか気が進まなかった

それが何故なのか、僕にはまだわからない


「そもそも、なんで今更なんです?別に今じゃなくともいいでしょうに」

「今じゃなきゃだめなんだよ!結局、子供の頃にシェリアを裏山に連れて行ってやれなかったな…っていうことを今思い出したからな!」


単純というか、純粋というか、兄さんはあの頃と何も変わっていないんだなと思った

昔のままの、真っ直ぐさ

僕は昔の僕と正反対になってしまった

純粋さを失い、冷酷さを身に付けてしまった

兄さんといるとそれを痛感してしまい、胸が痛む


「…ヒューバート?」


いつの間にか考え込んでいたが、兄さんに呼ばれてはっとする


「すみません。考え事です」

「何か思いついたか?」


それに対して考えていたのではないのですが、と言おうとしたがやめておく


「ありのまま誘えばいいんじゃないですか?」

「えっ」

「だって、それ以上に兄さんらしいやり方なんてありませんよ」


シェリアだってその方がきっと…

なんてシェリアを想像したら、見事に真っ赤になったシェリアが思い浮かんだ

この2人は何故だか応援しなくてはならない気になってしまう
しかし僕の心境としては複雑なものだった

どこかで、兄さんはずっと僕の兄さんなのだとでも思っているのだろうか

兄さんは、兄さんだ

僕の、みんなの、兄さんなんだ



「…ト、…おい、ヒューバート!」


兄さんの声がして、またしてもはっとする


「どうしたんだ?今日おかしいぞ。具合でも悪いのか?」

「いえ、気にしないでください。貴方には関係ありませんから」


関係というか、原因は間違いなく兄さんなのだけど。

でもたしかに、少々足元がフラつくような気がする

そういえば昨日はあまり寝ていないような…

なんて思いながら席を立つ


「ヒューバート、お前フラフラだぞっ」

「大丈夫です。気にしな「気にするよ!」


力強い言葉と連動するような兄さんの真っ直ぐな目

吸い込まれそうなほどに澄んでいるその目を見つめていると、ふっと僕の意識は消えた






いつまでも変わらない、貴方のままで



目を覚ますと僕はベッドの上にいた

隣には当然のように僕の兄さんがいてくれた

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