私の存在意義

□乙
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あの事件の後、瀬文は怪我の治療を、当麻と穂村は精密検査を受けさせられることになる。

いち早くそれが終わった瀬文は聴聞委員会に出なくてはいけなくなり、一人で出席させられた。

それを終え、瀬文が当麻の入院している病室にやって来るとちょうど検温をしているところだった。

ベッドの上で横になった当麻。

その瞳は閉じられている。

「まだ意識は戻らないんですか?」

「え、昼はご飯めちゃくちゃ食ってましたけど?……平熱だ」

最後に看護師は「退院してくれると助かりますぅ」と言って出ていった。

その看護師と入れ違いに穂村が病室に入ってくる。

「アレ? 瀬文さん、思ったより早かったですね」

「阿……怪我は?」

瀬文の問いに穂村はキョトンとする。

「銃で撃たれてただろ」

「あぁ、当たってませんでしたから。でも死んだフリしとかないと、また撃たれちゃうかもって思ったんでー、黙ってました!」

ぶりっ子風に「えへっ」と言うと「そうか」とツッコミを入れられなかったので穂村は不満そうな顔をした。

そして瀬文は当麻の顔の辺りに立つと、思いっきり拳を振り落した。

ガンッ

「うっ……」

穂村や病室の他の患者は目を見開いて口をポカンと開ける。

「起きろ、帰るぞ」

「鼻血……」

「当麻さん、大丈夫ですか!?」

さっさと部屋を出ていく瀬文。

穂村は慌てて当麻にティッシュを渡した。


















「お前、聴聞委員会わざとサボったろ。穂村も」

「あたしは学校でーす。サボってませーん」

穂村が反論すると「普段は行きたがらないくせに」と当麻からツッコミが入る。

「ってか意味ないじゃないですか、こんな茶番劇」

≪自分は事実だけを述べております。≫

当麻が携帯に録音された音声を再生させる。

すると流れてきたのは聴聞委員会の音声だった。

「お前、聴聞委員会盗聴してたのか!?」

「一応気にして上げてたんですよ。どうせ上の奴らは事件をごく当たり前の事件として処理したいだけなんすよね。てか警察が手に負えるような相手じゃないのに」

「ですねー」

当麻の発言に穂村がうんうんと頷く。

「お前ら、相手を知ってるのか?」

「瀬文さんももっとうまく誤魔化せばいいのに。時間の無駄ですよ」

聞き捨てならない単語に瀬文は「“時間の無駄”だと!?」と怒りを露にする。

「人が目の前で二人やられた。一人は死に、一人は植物状態だ」

「つっても警視庁のお偉い方は絶対信じないっしょ」

「だったらその時間を使って他の人を救った方が……絶対いいに決まってます」

二人はそう言って瀬文を見た。

「…じゃぁ明日」

瀬文がそう言うと三人はそれぞれ分かれる。

「…みんな無事で良かった」

「“良かった”?」

穂村が誰もいない道で呟くと後ろから声が聞こえた。

振り向くと一が立っている。

「そんなにあの二人が好き?」

「まぁね」

そう言って微笑む穂村。

「まさか……裏切ったりしないよね?」

「それはありえないよ。あたしにとって一番大事なのは十一だもん」

穂村の言葉を聞くと一は「本当?」と聞き返す。

「信じられないなら……」

「何?」

自分の方に小指だけを立てた手が差し出されると一は首を傾げた。

「指切り。これなら信じられる?」

「こんなのしなくても僕は穂村を信じてるよ」

一がそう答えると、穂村は「そっか」と言って手を引っ込めた。

「どう? 未詳は」

「面白いよ、当麻さんも瀬文さんも」

穂村が楽しそうに答えると一は「じゃぁおやすみ」と言って一瞬で消えてしまった。

「……おやすみ」

誰もいなくなった路地で穂村はそう呟いて帰っていった。




















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