海色の瞳
□さいしゅうわ。
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「結婚おめでとう」
白いヴェールに包まれた花嫁。
八年の歳月を経て、私は二十四歳になった。
長すぎた八年だった。
片時もあの人を忘れはしなかった。
否、忘れられなかった。
空を見上げる度に涙を流し(最近になって漸く涙を流すことはなくなったが)私の心に空いた穴は未だ埋まってはいない。
白いレースに触れ、おめでとうと言う。
幸せそうに笑う女友達を見て何故か涙が出た。
「何泣いてんのよ!しかも今!?」
「あーごめん。だって綺麗なんだもん」
スマンと言いながら涙を拭おうとするとそれを阻まれた。
「そんなことしたらパンダになるわよ、ウミ」
悪戯っぽく笑って、彼女は私の手からハンカチを奪う。
目元に当てられたハンカチが涙を吸い取っていく。
「…今日は、おめでとう」
「あんたに祝って貰えると、本当に嬉しい」
「私も祝えて嬉しいよ」
本当に?と言って彼女は急に思案に耽り始めた。
「…八年前よね。ウミが行方不明になったのって」
「…たった一週間だったじゃん」
ふっと笑う。
あの頃の私は現実を頑なに拒んだ。
――― 一 週 間 。
あれだけみんなと過ごして、たったの一週間?
誰に訊かれても答えなかった。
曖昧に笑うばかりで。
あの日、…彼に落とされて気付けば私はまた、あの煙草屋の軒下に立っていた。
行く前と違っていたのは空が真っ青だったことと、私の頬が涙で濡れていたことぐらいだった。
「八年前の今日よ」
「…え?」
「あんたが居なくなったの。今日の空模様、まるでウミを迎えに来たみたいって思ったんだけど」
思い出が鮮明に蘇る。
どうする、なんて訊かれる前に。
「ごめん。私」
「いってきな。…幸せになりなよ」
それは分かんない!半ば叫ぶように言って、走り出す。