恥文
□未来、叶い。
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叶えられない願い。
ずっとそう思ってきた。けれど意外とそれは容易く手に入って。
叶わなければ良かったとすら思う。
そうすれば、気が狂いそうな痛みに焼かれることなど無かったのに。
空っぽの心。
「…………けいこく…」
名を紡いだだけで、喉を塞がれるように苦しい。壁に手をつくと、ちりんと音がした。螢惑がくれた金色の鈴の音。
「辰伶?…これ、あげる」
あの鉄仮面が、少しだけ微笑って渡してくれた…――。
手首に結んでいたそれを引きちぎって庭に投げる。
堅く閉じた目から涙が一筋落ちた。
辰伶は血を分けた弟に恋をした。
それは忘れ去るべき感情で、けれど一人では出来なかった。
だからいっそ思いを告げ、きっぱり諦めようとした。それなのに、あの漢は言った。
「いいよ。ちょうど女にも飽きたし」
最初は喜んだ。
でも、
今になって気づく。
好きだと告げて、いいよと言われた。
だからなんだ。
俺達は漢だから。
その先など、ありはしない………。
それに気づいた1ヶ月前。俺は螢惑に別れを告げた。
そして――…
その次の日に事件は起きた。
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