恥文

□赤と青の事情
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もう何本目の刀かわからない。自分の刀は脂と刃こぼれで使えなくなり鞘に収まっている。質の悪い攘夷浪士の刀は切れ味が悪く、いたずらに重かった。

三方向から同時に飛びかかってきた敵を薙いだ。
血しぶきを浴びない内に三角形の外に逃げる。
大上段に構えた浪士の腹を横一文字に切った。

パッと散る赤。

青い空と対極をなして映えるそれに目を奪われる。
―――――
普段、乱闘はできるだけ市中を騒がせないように夜中に計画している。
ただ、今日は違った。
奇襲をかけられたのは真選組の方で、見回りに出ていた何組かが一斉に襲われたのだ。救援要請を受けた屯所は直ちに人を出し、土方の指示で徐々に一カ所に集まった。

―――――

もう自分の他に誰も立っていなかった。
 煙草を出して火をつける。大きく吸い込んだ。

「やべぇな」

夜の戦闘と昼の戦闘は違う。余計なモノが見えすぎるのだ。
視界に入る物すべてに緊張し、一番大きな危険に対応できない。
夜は見えない血の色彩と匂いに酔い、判断力が鈍る。

…―――そして。

「あいつ、探すか」

一人ごちて、だいぶ短くなった煙草を落とし、踏みつける。

僅かな赤が掻き消えた。
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