幸福という名の灯り

□〜happy halloween〜 (前編) 
1ページ/12ページ




「…寒いな。」
ずいぶんと急に冷え込んだものだ…。

停めてあった愛車に乗り込もうとして、緒方は思わず呟いた。それもその筈、もう10月も今日で終わりである。
彼はつい、時計と暗くなった空を見比べた。


婦人誌の取材を受ける為、ここに着いたのが午後の2時だった。
地下にある撮影スタジオで記事に添える写真を撮影し、そのままそこでインタビューを受けていた。
いつもの囲碁関係の取材とは異なり、それは『いま最も旬な男、十人!!』という、婦人誌によく有りがちなタイトルのグラビア特集だった。
緒方はその整ったルックスの所為か、囲碁以外の世界でも人気があった。
今日は、シックなブラックのパンツと、同じくブラックでナローなピークトラペルの、彼にしては珍しくやや丈の短い二ツ釦ジャケットという出で立ちであった。中には変わった質感だが温かみのあるホワイトのウイングカラーのシャツを、胸元を開けてラフに着崩していた。合わせに沿って、縦に、四列だけシンメトリーに施されたピンタックがクラシカルな印象のアクセントになっている。服に合わせて、眼鏡も軽い感じになるように、フレームのないタイプを選んだ。
この後に他の仕事が入っていなかったので、完全にオフの時の格好だった。

二、三枚撮って終わりだろう…。
と思っていたが、ちゃんとしたプロのスタイリストがおり、衣装としてスーツが何着か用意されていて、何パターンかたくさんの写真を撮られた。まるで、着せ替え人形のようだった。
そのくせ寛がれたシーンも一枚と、インタビューに移ってから堪えかねて一服吸っていた処までを写された。

…うんざりだ。
緒方は吐きたいタメ息を何度も飲み込んだ。

昔から写真は嫌いだった。
へーゼルの瞳は、よく赤く写っていた。吸血鬼のようだ、と思った事がある。
人よりも色素が薄く、自分だけ不気味に光る眼が嫌だった。
色素の薄い眼…それは、遠い地の血縁を意味した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ