宍戸さん愛

□幼心の・・
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 俺様には宍戸亮という幼馴染がいた。
 俺より小さくて、俺の後によくついてきていた。
 一緒に遊んだ。家にも呼んだ。家に泊まったこともある。
 それなのに宍戸はいきなり引っ越した。
 何も言わず。何も告げずに消えてしまった。

 住所も何も知らない。
 誰に聞いても知らなかった・・。

 小さかった俺が住所をきいたところでどうなるものでもない。
 だからそのうち忘れていた。
 宍戸と過ごした時間も何もかも・・。
 フィルターのかかった断片的なもの・・。その程度になっていた・・。

 それから俺は中学へ。
 中学は勿論氷帝だ。幼稚舎から通っている氷帝。このままなら高等部までいくんだろう。

 三年になる前の春休み、跡部は一人テニスコートへ来ていた。
 休みのせいか校舎は閑散としている。

 コートの中は彼がうつボールの音だけが響いていた。
 けれどその静けさは終わってしまった。

「よぉ!跡部!!」
「?」
 声のした方を振り返ると大小なペアがいた。
 向日と忍足だ。
「・・・何だよ、てめぇらも練習か?」
「まぁ、そんなとこ」
 この二人は二年の終わり、監督の榊からダブルスを組むように言われたのだ。その練習にきたのだろう。
「なぁなぁ!知ってるか!?」
「あ?」
 向日はにやにやしながら跡部をベンチから見下ろす。
「何だ」
「三年に転入生くるんだってよ!!」
「・・・・・」
「女子!!」
「へぇ・・」
 女子というのは珍しかった。
 氷帝はかなりの人数がいる。だがほとんどは男子。
「どこのクラスなんだ?」
「俺と一緒!!」
 向日は自慢げに叫ぶ。
「見てきたのか?」
「さっき手続きしてた」
「ほぉ・・」
 ということは試験も受けたのだろう。
 氷帝は成績なども厳しい。私立である所以なのだろう。
「顔、見たのか?」
「ああ・・結構いい顔しとった。気が強そうでな」
「侑士好みなのかよ?」
「ん?さぁな」
「名前は?」
「え・・・あ・・何だっけ??」
 向日は苦笑いし、隣の忍足へふる。
「名前くらい覚えとき?同じクラスやろ?」
「漢字の読み方しらなくてさ」
「ったく・・。あれはししどっていうんや」
「・・・・・」
 跡部はその苗字を聞いた途端、ふと顔を上げた。
「宍戸 亮」
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