輝く物語


□甲板の上で横たわるのは
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「あ!リオンだっ!」


ようやくうとうとしていたところを無理矢理叩き起こされたリオンは、とてつもなく不機嫌だった。
しかしそんなことには気付かないイリアは、ばしばしと彼の肩を叩くのだった。


「うッ・・・、や、止めろっ!」

鬱陶しそうに彼女の手を払いのけると、再びリオンは目を瞑ろうとして。
イリアに今度は頬をぺちぺちと叩かれたのである。

どうして僕がこんな目に・・・。

もともと部屋に戻らずホールでまどろんでいた自分に非があるのだが。


放っておいてくれれば良いものを。


リオンは面倒くさそうに時計をちらりと見た。


真夜中の2:30分。


周りの奴等はもう寝ているだろう。
しかし何だ、この少女は。



「ガキはとっくに寝る時間だ。」

「だーれがガキよ!あんたに言われたかないってーの!それに、あんたも眠れないんでしょ!?」



誰のせいだと思っているんだ。


っていうか、お前が来る少し前まで気持ちのいい眠りにつこうとしていたのにッ!


リオンはイリアを睨む。
すると、何と、イリアもリオンを睨み返して来た。


「僕は今機嫌が悪いんだ。放っておいてくれ。」

「あたしは暇で暇でしょーがないのっ!だから放っておけませーんッ!」

ぐいっと彼を引っ張ると、イリアは少々強引な方法で彼を甲板までへ連れて行った。
その強引な方法はどのようなものか、というと・・・。


「かっるいかっるーい!」

「止めろ!降ろせッ!」

イリアはリオンを背負い、彼の軽さにキャッキャとはしゃいでいたが、リオンにとってこれほど屈辱的なことはない。

年下の、しかも女に、自分が背負われている・・・。


かなり、というより、物凄く抵抗があった。




「止めろって言ってるのが分からんのかっ!命令だッ!」


「あんたにめーれーされる筋合いはあーりませーん。」



じたばたと暴れるリオンをなんとか甲板まで背負うと、イリアはわあ、と歓喜の声をあげた。

途端に、背負っていたリオンのことなんぞ忘れ、ぴんと立ったので、リオンは尻餅をつくことになった。


すっかり不貞腐れたリオンは、さっさかと部屋に戻ろうとするが、イリアに引き止められ、戻ることもできない。


イリアは夜空に散りばめられた無数の星を眺めながら、一番光る星を指差した。



「ね、ね!あれは何の星!?」


「・・・木星だ。」


へぇ、と感心しながら、イリアは甲板に横たわった。
リオンも隣に寝転ぶ。


「こーして見ると、宇宙って広いわねー!」

「・・・あそこに見えるのが、土星だ。」

「あんた詳しいのね。星オタクだったりする?」

「おた―ッ!?・・・このくらい常識だ。」


皮肉を言ってみたが、彼女には通じず。
流石の彼も、屈服するしかなかった。

夜空の星が、何とも綺麗だ。

そして、吹いてくる潮風が気持ちいい。

ほんのりと漂う海の匂い。



すると、イリアは再び何かを指差した。


「あれは?」

「・・・星の集まりだな。すばるという。」



うんうんと満足気に頷く彼女が、今は何だか可愛く見えた。

自分は潮風にあたりすぎて、何かの病にかかったのだろう。
旅を続けようというのに、どうしてくれよう?


すると、ぶちぶちという音と共に、リオンは背中が引っ張られている気がした。
ふと横をみると、イリアが先ほどまで自分のマントであった布切れにくるまっている。


「ぼ、僕のマントーッ!!!」


取り外し可能なこのマント。
聞いてくれれば外したのに、無理矢理力を加えたため、マントは破れてしまった。

お気に入りだったのに・・・。

先ほどとは比べ物にならない憎悪がわいてくる。
イリアはその殺気に気付いたのか、ひょいっとリオンを見つめた。


「貴様ぁぁッ!」

「わわわッ!ストップストップ!ぎゃあああぁー!」


イリアの上に乗りかかると、流石に相手も焦りだしたようで。
何とか逃げようともがいていた。


「新しいのショップで買ってあげるから!ね?」

「そんな問題じゃないだろ!どうして先に聞かなかった!」

「だって、凍え死にそうだったんだもんっ。」


罰が悪そうにイリアは俯く。
困った彼女を見たリオンの血が騒いだ。
まさか、サドの素質開花!?
っというより、まず最初に彼女にときめく自分に問題があるだろう。



「とにかく、だ。明日になったら縫い直してもらうからな!」

「パニールに頼めばいいのに・・・」

「貴様反省してるのか?」

「ふぁーい。」



マントに包まったイリアは、ぬくもりを求めてリオンの身体にぺたーと引っ付く。
かぁっと身体が熱くなったリオンは戸惑いつつも、彼女の背中に手をあてて。
それを良い事にイリアはどんどん寄り添って来た。

「もう、寄るなぁ・・・」

しかし眠っている彼女には聞こえない。
もう少しだけ星を眺めてから、リオンは部屋に戻る事にした。
もちろんイリアを置いて行くわけにはいかない。
ちゃんと彼女を抱えると、彼女の仲間達が眠る部屋へ行ったのだ。



思いがけない奴がリオンを迎えた。


スパーダ、と言っただろうか。
大変不機嫌そうな顔で、リオンをギロリと睨むと、彼の肩にちょこんと乗っているイリアを見て驚いた。


「俵担ぎって・・・おいッ!」

「コイツを寝かしておいていくれ。」

「ところでてめぇコイツと甲板で何してた?」

「星を見ていただけだ。」

「ほう、じゃあコイツが叫んでいた『ストップストップ。ぎゃああぁ!』というのは俺の空耳なんだな。」


くそぉ、勘違いされやすいところだけ・・・。

この様子じゃあ話なんか聞いてくれないだろうな。
なんせこの時間。
怪しまれても可笑しくはない。


リオンは、ひとまず締められる前に逃げる事にした。



end

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