世界樹と通じた魔法使い
□PROLOGUE
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…………寒い。
身体が感じる寒さがだんだん、はっきりしてくる。それと共に思考が開始する。
………身体が重い。
身体はまるで鉛のように重く、手足が上手く動かない。
……苦しい。
もがいてみても状況は変わらない。胸は詰まるばかりである。
…前にも似たような感覚があったような。
あれは幼い頃、自分が泳げるようになったのをいいことに家族で海に行った時だったか。
調子に乗って沖のほうまで泳いでいたら、自分は見事に波にさらわれ、事態に気付いてくれたライフセーバーの人に助けてもらったんだ。
ああ、親なんか目に涙浮かべながらお礼言ってたっけ。
馬鹿馬鹿、と言いながら抱きしめられたのも良い思い出……
そこまで、考えて思考は停止していた。
現実はあの時と同じ状態なのだから。
気付いた時には、水面を目指して動かない手足をこれでもかと動かしていた。
体は普段は防寒の為に着ている服が重しとなり、重力の底へと誘ってくる。
ここまで考えなくても気付くはずだ、普通。
様は溺れていたのである。
あまりの寒さであらゆる感覚が麻痺していたが、口全体に含んだ水は塩辛く、ここが海だということはわかった。
目を開けることは出来ない。
しかしこのまま何もしなければ、あっという間に海の藻屑となるだろう。
肺に貯まっていた貴重な酸素を一気に使い、どっちが水面かも分からないうちに、ただ明るい方へと泳ぎだす。
方向を決めるのは己の勘のみ。
こんなところで死んでたまるか。
そう思いながら、ただ意識を手放さないように、全力で極寒の海に挑む。