短編小説

□想いを〜当てはめて〜
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「そうだね。でも、それでも良いんじゃないかな」


 くるっと向きを変えて、ナツは窓の外を見る。


「それで良いって……良くないだろ」


「そうだね。その子は良くないね、きっと」


「どっちだ」


 不機嫌な表情でハルが言うと、ナツは振り返る。


「きっとね、好きって気持ちは一つじゃないんだよ。仲の良い友達でも、一人ひとりに対して、好きっていう気持ちに微妙なずれがあるでしょ?」


「まぁ、そうかもな」


 まったく同じ感情を持って接することのできる相手はいない。

 そう理解してハルは頷いた。


「でも、もしね。その微妙なずれを無視して、全部好きってまとめちゃうとね、他の感情がないことになっちゃうんだよ?」


「……はい?」


 訳が分からないと、ハルは首を傾げる。

 それにナツは他の言い回しを考えて


「えっと、つまり……言葉にできない想いを無理やり言葉にするとね、言葉にしきれない想いって、ないのと同じになっちゃうんじゃないかな」


「……」


「きっと、言葉にできない想いってたくさんあると思うよ。
 それを無理に言葉に当てはめる必要って、ないと思う。きっと、その想いは大切なものだと思うから」


 言ってナツは綺麗に笑って見せる。

 それにハルも笑って返す。


「まぁ、そうかもな。……けどナツ、今の俺は手紙の返事しないといけないんだけど? 言葉にしないとダメなんだけど?」


「あっ。そうだった!! ……ごめんね、役に立てなくて」


 慌ててナツは謝るが、ハルはそれに答えず立ち上がった。


「ナツは、俺がなんて返事するか興味ない?」


「え?」


 突然尋ねられて、思わず間抜けな声が出た。

 それにハルは苦笑して、鞄を手に取ると歩き出す。


「帰るか、ナツ」


「え、ちょ、待ってよ」


 スタスタ歩いていくハルの後ろを慌ててナツは追った。



 
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