SandLand

□SandLand(前編)
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 真夜中に小さな物音を立てて、一人の少年が家から顔を覗かせた。

 家の外は人の姿は見えず、静まり返っている。


「誰も……いないな」


 一応確認をしてから少年は少年は家を飛び出す。

 急ぎ足で村を抜ける道を一直線に進んでいた。

 その時、後ろから聞こえる妙な足音に気付く。


「……なっ、遊羅(ユラ)!?」


 少年が振り返ってみると、そこには知った顔があった。

 遊羅、という名の小さな女の子だ。

 年齢は十歳前後といったところだろう。


「どこに行くの? お兄ちゃん」


 首を傾げて問う遊羅は彼の妹にあたる人物。


「どこって……」


「ついて行く!!」


 答える前に遊羅は握りこぶしを作って声を上げた。


「ちょ、静かに。村の人が起きるだろ」


「あ、ごめんね。えっと、夜逃げ?」


「どこでそんな言葉……。 人聞きの悪いこと言わないでくれる?」


 呆れながら一応訂正して置く。


「……お兄ちゃん」


「駄目だよ、遊羅。お前は連れては行けない。家へ帰りなさい」


 遊羅の背をそっと押して帰るように促す。

 しかしすぐに遊羅は戻ってきて


「すぐ帰ってくるんでしょ?」


 尋ねられても少年はただ視線を巡らせて答えない。

 すると遊羅は不機嫌な目で彼を見る。


「やっぱりついて行く」


「まったく、仕方ないな。遊羅、今はお前を連れて行けない」


 困りながら頭をかくと、少年は続けて言う。


「でもいつか俺が遊羅の助けを必要としたら、その時は助けてくれる?」


「……うん」


 すいぶん自分勝手なことを言ってくる兄だが、遊羅は素直に頷く。


「ありがとう、遊羅。じゃあ、その時がきたらおいで……」


 彼は言葉を続ける。


「SandLandへ」


 その言葉と笑顔を残して少年は一人村を出た。




 それはもう二年も前の話し。



 
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