SandLand
□SandLand2―姫君の宝物庫―(前編)
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プロローグ
かつて戦争に巻き込まれていたその国は、争いから逃れるために国ごと空へ逃げた。
地上にある国々から侵略を受けないよう、ひっそりとした暮らしを求めた。
そして長い月日を経て、その国は地上の人たちから忘れられていった。
その国の名はSandLand(サンドランド)。
今から十数年前。
「ねぇ聞いて、お母さま」
SandLandの王女、クラリスタは王妃である母に声をかけた。
王妃は寝ていた体を起こして娘のクラリスタへ微笑んだ。
ここ最近、王妃はベットの中が生活の中心となっている。
体調が良い日は、城を散歩したり、多少の政務を行うなどしているが、いつ体調を崩すか分からないという不安は尽きない。
「どうしたの? ずいぶん楽しそうねクラリスタ」
「えぇ、ふふっ、だってね……子どもができたのよ。
さっきお医者さまにおめでとうって言われたの」
「まぁまぁまぁ! それは良かった、良かった良かったわ、クラリスタ!」
思わず王妃はベットから起きあがって娘のクラリスタに飛び付いた。
「ちょ、起きあがって大丈夫なの!?」
「こんなときに寝ていられますか!? 本当に良かったわ」
安堵のため息と同時に、王妃はクラリスタをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、お母さま」
随分と長い間、子どもが出来ないことでクラリスタは悩んでいた。
20歳で結婚し、その後は後継ぎを求める周囲からの期待も強かった。
しかし35歳を間近に控えた今に至るまで、その予兆はなかった。
SandLandは小さな国だったが、それがゆえに国民たちはクラリスタの子どもを一丸として願っていた。
もしかするとこのまま子どもができないのではないかと王妃とクラリスタ、国民たちは不安を感じていたころだ。
「どうか、あなたの子が元気に育ちますように。
そしてあなた自身にも平穏が訪れることを願っているわ」
「ありがとう。絶対にこの子を大切に育てるわ。なにに変えても、必ず、守る」
そうして生まれた姫を、クラリスタは大切に育てた。
国民からの期待、後継ぎの問題、それららを差し置いて、単純にクラリスタは娘が愛おしくて仕方がなかった。
王妃が自分を慈しんでいてくれるように、娘にいっぱいの愛情を与えて育てた。
姫が傷つかないよう、怖い思いをしないよう、いつも笑っていられるようにと。
それはもう、宝物のように。