短編小説

□冬の日に〜祈りを捧げて〜
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 冬の日に〜祈りを奉げて〜





 寒い寒い冬の日の放課後。

 とある学校の屋上で、一人の女性生徒は、小刻み震えていた。

 見下ろせば下校していく生徒たちの姿があり、見上げれば、雪がちらつく。


「雪……」


 女子生徒は、小さく呟いた。

 と、その時


「ナツ、またこんなところで……」


 屋上の扉が開いて、今度は男子生徒がやってきた。

 そしてそこにいた女子生徒をナツ、と呼ぶ。

 ナツの本名は茨城夏海(イバラギ ナツミ)。

 長く茶色の髪を腰まで伸ばし、横の髪を二か所で止めている少女。


「ハルくん……、良いの。私寒いの好きだから」


 ナツは男子生徒のことをハル、と呼ぶ。

 このハルの名前は鈴宮遥(スズミヤ ハルカ)。

 肩につかない程度の黒髪の少年で、前髪を真ん中で分けた人物。

 ナツとは幼馴染に当たる少年。


「その割には震えてるけどな」


 ナツ自身は平気そうに振舞うが、やはり小刻みに震えているのをハル見た。


「良いの!! 寒いけど、心は暖かいから」


「相変わらず、意味が分からないな」


 ため息交じりにハルは頭をかく。


「えへへ〜。それよりね、ハルくん!! 私考え事してたの」


「何?」


 突然手をパンっと合わせるとナツは微笑む。

 それに期待と不安を抱きながら、ハルが問うと、彼女の微笑みが増す。


「もうすぐクリスマスだからね、サンタさんに何をお願いしようかなって」


「……………………」


 無言で、ハルはナツを見た。

 無言で。


「えぇ!? そんな哀れな目で見ないでよ!?」


 その視線にナツは思わず数歩下がって恥ずかしそうに手をぶんぶん振って見るが、ハルの不審な視線は変わらない。


「わ、分かってるよ!! サンタさんはいないって……もう、枕もとにプレゼントを置いてくれる人もいないって……」


「ナツ……?」


 合うようで合わない視線。


「でもね、ハルくん。願うのって自由なんだよ? 私たちは規則、ルールで何かしら縛られた中で自由を持つけど、心だけは、何にも縛られないから」


 緩んだ笑みを見せるナツ。


「そうだな。なら、ナツには、何にも縛られない壮大な願い事があるんだ?」


 どこか楽しそうにハルは首を傾げる。

 するとナツも素直に笑って両手を合わせる。


「うん。私のお願いは壮大だよ。みんなが幸せでありあすよにって」


「まるで七夕のお願いごとだな。とりあえず、その願いを叶えるためにも、帰るか。寒いし」


「そうだね、ハルくんが風邪引いたら大変だもの」


 くるっと向きを変え、ナツは屋上から校舎へ戻ろうとした。

 するとハルのほうから


「なぁナツ? その願い、一体誰がナツのこと願うんだ?」


「へ?」


 突然の質問に、理解する間もなく間の抜けた声が出た。

 かと思うと、ハルは一息吐いて


「…………帰るぞ」


 彼女の背を押し、屋上を後にした。



 終わり。
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