短編小説

□軌跡図
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 すたれた港町。

 人や開いている店はほとんど見当たらず、窓も閉め切った建物が立ち並んでいた。

 そのすたれた裏通りを走る男の子と、追う男たち。

 男たちは見た目にも雰囲気にもまともな暮らしをしていないことがうかがえた。


「……はぁ、はぁ」


 息を切らせて、男の子は走る。

 その腕に、ギュッと強くかばんを抱えて。

 男の子は走る。

 が、道の裏へ、裏へと走っていると、やがて男の子は


「い、行き止まり……」


 目の前に立ちふさがる高い壁を見上げた。

 男の子の身長の倍以上はありそうな壁。

 登ろうにも、男の子の小さな体では不可能だろう。

 それを瞬時に理解して、男の子は壁を背にした。

 するとそちらからは男たちが詰め寄っている。


「……」


 険しい表情で、男の子は男たちを睨みつけるが、それもやはり子供の姿で、無駄だった。


「さぁ、追い詰めたぞ」


「そのかばん、結構なものが入ってるんだろう?」


「こっちへ渡せ!!」


 口々に男たちは言ってくるが、当然男の子は勢いよく首を横に振る。


「ダメだ!! これはお前たちが欲しがるようなものじゃない!!」


 強気に叫んでみせながら、少しでも後ろに下がろうと後退。

 しかし、間もなく壁が背に当たった。


「欲しいものかどうか、見てから判断するさ!!」


 男のうち一人が言った瞬間、一斉に男の子へ襲い掛かる。


「……誰か、助けて……!!」


 強く目を閉じ、声を出した。

 しかし男の子は知っている。

 このすたれた港町に、他人を助けるような心を持った人はいないのだと。



 
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