短編小説

□一つと〜世界と〜
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一つと〜世界と〜


 夕暮れ時に二人の学生が学校の屋上に立っていた。

 制服に身を包んでフェンスをしっかり持ち、横に並ぶ二人。


「……どうしたの、ハルくん?」


 先に尋ねた女子生徒。


「ちょっと、考え事」


 呼ばれたハル、と言うのは黒髪の男子生徒。

 本名は鈴宮遥(スズミヤ ハルカ)。前髪を真ん中でわけ、肩に付かない程度の長さにしている。


「心配事?」


 再び問う少女はナツ。本名を茨城夏海(イバラギ ナツミ)という。

 茶色の長い髪を持ち、二箇所を軽く結んでいる。

 ハルとは幼馴染だ。


「ナツは知ってるか? この付近でなんか殺人事件あったって話し」


「あ、ニュースやってたね。犯人はもう捕まったって話しだけど……」


 悲しそうにハルの言葉に補足してナツは言った。

 それに釣られるようにハルも黙り込んでしまう。


「……ねぇ、ハルくんは命の大きさがどれくらいか知ってる?」


「命の大きさ?」


 オウム返しにハルが尋ねると、ナツはゆっくりと頷く。


「私はね、一つの命は世界と同じ価値があるものだと思うの」


 夕暮れ度との空を見上げ、両手をかざしてみる。


「まず私の世界は私が見る範囲を指すって仮定するよ」


「……あぁ」


 ナツの言うことを頭で整理しながらハルは彼女の話を聞く。

 つまり地球を世界とするのではなく、自分の見える範囲を世界と考える。


「私が死ぬと私の世界はなくなるの」


 小さく握り拳を作ってナツはニュースを思い出してしまう。


「人を殺すことは、世界を一つ消してしまうのと同じってことか?」


「私は、そう思うよ。命は大切。例え他人でも、それは世界だから」


 言いながらナツは屋上から見える景色を見渡した。

 それを横目に見ながら


「まったく、ナツの言うことは相変わらず理解しにくいな」


 頭をかきながらハルは一息ついた。


「えへへ、そうかな?」


 なぜか照れ笑いをするナツ。


「でも、聞いてて面白い」


「え? 私の話しって面白いのかなぁ」


 苦笑するハルにナツは頬に手を当て考えるが、自分では分からないらしい。




 やがて日が暮れると、二人はその場を後にした。



終わり。
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