短編小説
□時の君〜in spring〜
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時の君〜in spring〜
窓際に置いた鉢を両手で包みこんだ。
新しい家に、新しく育てる植物。
なんの花だろうか、実家にあった花の種を少しだけ持って来てまいたものだ。
茨城夏海(イバラギ ナツミ)は、その花の名を知らない。
植えるのもこの時期で良いのか、そんな自信もないままに、始まったばかりの一人暮らしのスタートを一緒に切る相手が欲しくて、それを置いた。
「行ってきます」
両手に抱えた鉢に一人頷くと、学生服をひるがえして家を出た。