短編小説

□いつも一緒。
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 ベアはいつも椅子の上。

 くるくる回って、上下にも動く便利な椅子。

 トニーが少し大きくなって、新しいベッドがきた。それからはベアの居場所はここになった。

 もうトニーがベアを抱きしめて眠ることもなくなった。

 ただ机に向かうときは、いつも膝に乗せて、ぎゅっと心を込めて抱きしめた。





 そんなある日、トニーの友達が部屋に来た。


 トニーには仲の良い友達がたくさんいるのだ。

 友達がベアに気付くと、トニーは胸をはって、ベアを紹介した。

 友達は男の子がぬいぐるみを持っているなんておかしいと言うけれど、それでもトニーはベアのことを恥ずかしいなんて思わなかった。


「このぬいぐるみ、よく見ると、いぬだね」


「ベアがいぬ? ベアは、くまだよ」


「だってほら、耳が垂れさがっているよ。くまはこんな耳をしていないよ」


 友達に言われて、トニーはベアを抱き上げてまじまじと見た。


 少し汚れてしまっているけれど、ふさふさな茶色の毛。垂れ下がった耳と、丸い尻尾。
そして、墨で塗り潰したみたいな真っ黒な瞳。


「あ、本当だ。僕はてっきりくまだと思っていたけれど……」


 今更知ったのか、と友達は笑っていた。次に、友達がロボットのほうに気付いた。

 本棚の上でじっとしているロボット。リモコンがないとはいえ、一昔前に流行っていたロボットだ。

 トニーと友達は、日が暮れるまでロボットで遊んでいた。


 もう夕食も近いのではないか、という時刻になって、ようやく友達はそれぞれの家に帰った。


「ベア、友達の言うことなんて気にしなくて良いからね。くまでもいぬでも、ベアはベアだよ」


 ぎゅっとベアを抱きしめて、トニーは優しく言った。

 その言葉にベアは嬉しくなった。


「僕は気にしてなんか、いないよ。それよりも、トニーにはたくさんの友達がいるんだね」


「うん。友達がいるから、僕はいつも幸せな気持ちになるんだ」


 そのとき、トニーが優しい心でベアをぎゅっとしても、ベアの心は温かくならなかった。




 
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