短編小説

□軌跡図
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第一話 船長の名




 痛みはやってこない。少し経っても、もう少し経っても。


「……」


 恐る恐る男の子は目を開けて、目の前の光景を見ようとした、が


「へ?」


 思わず間抜けな声が出た。

 男の子が創造したのは、今にも襲い掛かってくる男たちの姿だった。

 しかし、それは目の前にはない。

 代わりに、そこにいたのは二人の青年だった。

 なぜか、二人して片手を出し、男の子の目線に合わせて立っている。


「え……あの……?」


 その出された手が理解できない。

 が、良く見ると二人の青年の向こうに倒れた男たちの姿が見える。

 助けてくれたのか、と考えていたころ、青年の一人が口を開く。


「え……あの? じゃねぇよ!! 助けてやったんだから、さっさとお礼の品を出しやがれ!!」


「ひぃ!!」


 乱暴な口調で、その青年はお礼を求める手をさらに突き出す。

 するともう一人の青年が、そっと止めに入ってくる。


「ダメだよ、怯えてるじゃない。まずはちゃんと状況説明をしようよ」


 両手の平を乱暴な青年に見せ、なだめるようにする。

 こちらの青年は、一見落ち着いていて、常識はありそうな感じがする。


「いやいやいや!! お前、俺と一緒になってお礼を求める手、出してたよなぁ!?」


 不満いっぱいに反論したが、それでも落ち着いた雰囲気のある青年は構わず話しを続ける。


「俺の名前はトートって言うの。とある船の船長をやってるんだよ」


 ニコッと安心感の出る微笑みを見せた青年、トート。

 まとまった茶色の髪をした彼。

 小奇麗に着込んだ服や、緩やかな表情が印象的だ。

 年齢はまだ二十歳前後、と言ったところだろう。


「……それから、俺はクロマ。トートと同じ船乗りで、仲間だ」


 妙にトートについていけてないように思う青年、クロマ。

 乱暴な口調で、少々小汚い恰好。

 雰囲気からもトートとは異質なものがある。

 黒髪を無造作に切っていて、年頃はトートと変わらないように見える。

 二人がそれぞれ自己紹介をすると今度は男の子に視線を向けて、名乗るように促す。


「あ、はい、僕はフィカって言います。この港町に住んでるんです」


 一度頭を下げてフィカは名乗った。

 綺麗な金髪を短くまとめた男の子で、年頃はまだ十歳にも満たない程度だろう。

 恰好はあまり綺麗とも言えないもので、察するにいい暮しはしていないようだ。

 
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