短編小説
□時の君〜in fall〜
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何度も転校を繰り返したが、これが最後の転校だと決めて、鈴宮遥(スズミヤ ハルカ)はこの町に戻ってきた。
父の転勤に伴い幼いころ数年住んでいた町だ。
親元を離れて一人暮らしを同時にスタートさせた。
高校一年生の九月、親元を離れて一人暮らしをスタートさせた。
転校して数日が経った日、遥は廊下を駆け抜けた。
滴る汗を制服の袖で雑に拭いながら、校門を出てしばらく先で目当ての人物に追いつく。
「ナツ!」
名前を呼んで手を引くと、彼女は反射的に手を振りほどこうとしたが、それでも遥はその手を放さなかった。
小学生以来に会う、茨城夏海(イバラギ ナツミ)は、遥に気づくのに少し時間を要した。
「え……、ハル、くん?」
幼いころの呼び名で呼ばれるのは若干気恥しい。
それでも転校を繰り返していた遥にとって、唯一の幼馴染と言える相手が昔と変わらない名で読んでくれるのはどこか安心もした。
頷いて手をそっと放す。
「わぁびっくりした! 小学生の時転校して以来だね! いつ戻って来たの?」
「先月くらいからちょこちょこ転校の手続きしに来てて、今月から五組に転入した」
制服を見れば同じ学校だということは言わずとも伝えられた。
「そっかぁ。わわぁ、本当びっくりしたなぁ、懐かしい」
緊張した面持ちだった夏海の顔が緩んで笑顔になる。
「ナツ、少し話したいことが……」
「あっ、ごめん! 私今日は急いでるの、それじゃあね」
遠慮がちに手を振りながら、夏海は足早にその場を離れて行った。
久しぶりに会ったせいだろうか、ぎこちない感覚が残る。
空振りした遥が一息吐いた時、背が後ろから叩かれた。
「おう、鈴宮。
なんだよ、一番に教室出て行ったくせに、こんなところでぼけっとしてなにしてんだ?」
「中塚……」
五組のクラスメイトの中塚洋祐(ナカツカ ヨウスケ)と、数人のクラスメイトや他クラスの集まりだった。
分け隔てなく仲の良い五組は転入したばかりの遥も気さくに受け入れてくれた。
「俺らこれからゲーセン行くけど、鈴宮も時間あるなら来いよ」
「あぁ」
夏海の走り去った方をちらりと見てから、遥は中塚たちのほうへと向きを切り替えた。