短編小説
□妖精の物語
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ミリーネは毎日のようにルリの泉を訪れた。
木登りをしたり、かけっこをしたり。
遊び疲れたらルリの泉の水を飲んで、ルリの歌を聞いた。
「ミリーネは、どうして泣いていたの?」
ミリーネの泣き声で目が覚めたときから、ルリはそれが気になっていた。
こんなにも、ミリーネは素敵に笑うのに、どうしてあの時、泣いていたのだろうか。
「ミリーネの暮らしてる村は、ちょっぴり貧しくて、一日一日のご飯を心配しながらみんな暮らしてるの。
だからみんなが協力していかないといけないんだって。
でもミリーネには、家族がいないから。
近所の人たちがご飯を分けてくれるの。
やっかいもの、なんだって。ミリーネは、一人ぼっち、なの」
震える両手をぎゅっと結ぶミリーネの姿に、ルリも心が痛んだ。
「村でミリーネがどんなふうに扱われているのか、僕は想像することしかできないけれど」
堅く結ばれたミリーネの両手を、ルリは上から重ねた。
ただ、ルリはミリーネに笑っていてほしかったから、一生懸命に言葉を紡いだ。
「一人ぼっちだった僕の隣には、今ミリーネがいてくれてるよ。
だから、ミリーネの隣にも、僕がいるんだよ。独りぼっちじゃ、ないよ?
一人ぼっちになんて、しないよ?」
「ルリ、ずっと友達でいてくれる? ミリーネのこと、忘れない?」
「もちろん、忘れないよ」
笑顔を作ったルリに、ミリーネも嬉しくなった。