短編

□裏の姿
1ページ/2ページ

手塚はメンバーとの対面を終え、部屋で休んでいました。

―コンコンッ

手塚「…誰だ?」

鳳「俺です。手塚さん」

手塚「鳳?」

手塚は部屋にやってきた相手が分かり、本を読んでいたその手を止めドアを開けました。

手塚「どうした?こんな時間に」

時刻は11時をとうに過ぎていました。
そんな遅くに、それも他校生である鳳が訪ねてきてもすんなり部屋に招いてくれるのは、2人が付き合っているからです。

鳳「手塚さんが帰ってきてくれたから、嬉しくてつい…。もしかして、今から寝るところでしたか?」
手塚「いや、さっきまで本を読んでいたからな。お前が訪ねてこなかったら、今の時刻にも気づかなかった」

さり気ない手塚の優しさに、鳳は胸が温かくなるのを感じました。
そして鳳は、無意識の内に手塚を抱きしめていたのでした。

鳳「…どうして、何も言ってくれなかったんですか?」
手塚「…すまない」

1つ年下であるにも関わらず、手塚より背の高い鳳の身体は、その細い身体を優しく包み込みました。緊張しているのか、鳳の胸から心臓の鼓動が聞こえてきます。手塚も、ここがとても好きなのでした。

鳳「俺の方こそ、すみません。まだ完治していないのに、あんな球を…」
手塚「いや…良いスカッドサーブだったぞ、鳳」
鳳「…本当に、あなたは…」

鳳は、今まで傍にいられなかった時間を惜しむかのように、手塚を抱きしめるその手に力を込めました。

鳳「さすがですね…」

それからしばらくすると、鳳は自室に戻っていきました。
1人になった後も、2人共すぐには寝つけず、本人達はすでに寝ているであろうと思っている相手のことを考えていました。

朝、手塚の周りには早速といわんばかりに人が集まりました。

リョーマ「部長。昨日部長が言ってたとこなおったかどうか、見てもらえません?」
手塚「ああ、分かった」

桃城「おい、待てよ越前。俺が先だ」
リョーマ「何でっスか?」
桃城「普通だろうが!ちっとは先輩に譲ろうとかいう謙虚さはねぇのか!」
リョーマ「関係ないじゃないっスか!」

菊丸「てっづか〜!俺と柔軟しよ?」

リョーマと桃城が言い争っていると、菊丸が手塚に後ろから抱きつきました。

大石「こら、英二!手塚の怪我はまだ完治してないんだぞ?」
手塚「いや、腕に負担をかけなければ問題ない」
大石「そうか?でもあまり無理はするなよ?油断は禁物だからな」
手塚「ああ、ありがとう」

青学は手塚の登場により、いつもの平凡な(?)日に戻りつつあるようです。
手塚も帰ってきた時の疲れなど、とうに忘れているかのようでした。
そんな手塚を、鳳は少々複雑な気持ちで見つめていました。

河村「良かった。何も問題ないみたいだ」
不二「何言ってるの?タカさん。大きな問題が残ってるじゃない?」
海堂「俺達、これじゃ部長とあんま話せそうにないっスよ」
河村「あ、確かに…」
乾「ああ、まさか手塚が戻ってくるなんて、俺にも予測できなかったからな」
不二「クスッ。まぁ、今はまだそっとしておいてあげるよ。手塚も戻ってきたばかりだし」

久々に手塚に会えて機嫌の良い不二は、他の人間が手塚に特別何かしようとでもしない限り、まじめに練習をすることにしました。

不二「でも…僕に勝つには、まだ早いよ」

不二の言葉を最後に、4人はそれぞれの練習場に戻っていきました。

手塚が各メンバーのプレイを見ながら、改善点の克服する術や、1人ひとりに合った練習メニューを組んでいると、宍戸が声をかけてきました。

宍戸「よぅ、手塚」
手塚「どうした?宍戸。何か用か?」
宍戸「用って程でもねぇけどよ…」
手塚「?」

手塚は自分から視線を外し、コートで練習しているメンバーの方を何となく、という感じで見ながら隣に立ったまま動こうとしない宍戸に、複数の疑問を抱きました。

宍戸「その…悪かったな。激ダサなんてよ」

手塚には、宍戸が自分に挑戦した直後に“手塚ゾーンに負けるなど激ダサである”と考えていただなんて知るはずはありませんでした。
ただ、手塚程ではないにしても、普段あまり会話に加わらず、話す機会がほとんどない相手なので、特に疑問を振ることもせず宍戸の言うことを静かに聴いていました。
もっと言うと、鳳の尊敬している宍戸亮という人物に、少なからず興味を持っているというのも本音でした。

宍戸「あんまり…無理すんなよ?//」

宍戸はそのまま、手塚と視線を合わせることなく何とか言葉を選びますが、手塚の表情をうかがわずとも天然な彼に疑問符を浮かべられているのは自分の会話の流れを振り返れば嫌でも分かりました。

宍戸「ち…長太郎が、心配するからよっ!」

宍戸の言うことはまず間違いありません。
鳳の性格上、手塚のことが誰よりも心配であるのは言うまでもないでしょう。
ですが、宍戸の言ったことは的を射ていましたが、本心から手塚に伝えたかったことであったかと言えば当然違います。
口下手でどう表現すれば良いか分からない宍戸が、恥ずかしさに耐え切れずについ鳳のせいにしてしまったのです。

手塚「…ああ、ありがとう」

それでも手塚は、宍戸の言葉が嬉しくて、自分でも気がつかない内に笑顔になっていました。

宍戸「っ!?//……激ダサ//」
手塚「?」

宍戸は初めて見る手塚の優しくて綺麗な微笑に、テニスをしている時以上に鼓動が早くなりました。

宍戸「なっ、何でもねぇよ!//」

赤くなった顔を見られまいとそっぽを向くと、ぶっきら棒に言い放ちます。
手塚はそんな宍戸を見て、鳳が宍戸を慕う理由が何となく分かったような気がしました。

鳳「…あれ?手塚さん、どうしたんですか?」
手塚「あ、いや…何でもない//」

手塚は宍戸と話していると、無性に鳳に会いたくなり、スポーツドリンクを取りに行っている鳳の方へ、自然と足が向いたのでした。

鳳「迎えに来てくれたんですか?」
手塚「そんな訳ないだろう。すぐ近くなんだぞ?」
鳳「そうですね。でも…俺が、勝手にそう思っててもいいですか?」
手塚「…好きにしろ」

鳳は、目の前にいる手塚が愛しくて堪らずに、その細い身体を抱きしめました。

手塚「お、鳳っ…誰かに見られたら…//」
鳳「分かってます。でも…少しだけ……」

―少しでいいから、あなたが欲しいんです。

鳳は、手塚の傍にいられることの幸福に浸っていました。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ