短編

□いとこという名のライバル
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手塚はすっかり帰りが遅くなってしまい、校門はもう閉まっているだろうと思ったので裏門から校外へ出ると、すぐに声をかけられました。

忍足「青学の手塚やないか。こないなところでどないしたん?」
手塚「忍足…お前こそ、何故ここにいる?」
忍足「謙也がこの近くまで来てる言うから、迎えにきたんや。あっ、そいつ、俺のいとこな。恋人と違うで?」
手塚「言われなくても分かっている。そうか…忍足が」
忍足「なんや、ややこしぃな。もし今ここに謙也がおったら、どっちのこと言うとんのか分からんやん」
手塚「まぁ…それは仕方がないだろう」
忍足「そや!なぁ、手塚。俺のこと侑士って呼ばん?それやったら分かりやすいで」
手塚「遠慮しておく」
忍足「何でや?俺は手塚に呼んで欲しいのに」
手塚「俺は呼びたくなどない」
忍足「つれないなぁ…。で、手塚はこんなところで何してんねん?」
手塚「ちょっと、生徒会のことで職員室に寄っていてな」
忍足「こんな時間に、部長さん1人で帰らせよると?無用心やなぁ、青学は」

忍足はそう言いますが、もちろん、テニス部員の中の誰1人、手塚をたった1人おいて帰るなんてことを考えるはずがありません。
特にレギュラー陣は、どれ程手塚が遅くなろうと、全員手塚を待っているつもりでした。
他の部員達を追い返し、誰が手塚を家まで送るか言い合っていたくらいです。
しかし、手塚が無理矢理追い返すかのように、全員家に帰したのでした。

手塚「いや、皆は待っていてくれると言ってくれたのだが、俺が無理に帰らせたんだ」
忍足「何でや?」
手塚「俺のせいであいつ等まで帰るのが遅くなってしまっては申し訳ないだろう?」
忍足「何言うてんねん?自分、今の世の中どこで何が起こるか分からんのやで?特に、あんたみたいな美人が1人で出歩くやなんて、“襲って下さい”って言うとるようなもんや」
手塚「女じゃあるまいし、別に1人でも平気だ」

まだ言うか、この天然は…忍足は、何をどう言おうと手塚が自分の容姿を自覚する日はこないのだろうと思いました。

忍足「ホンマ、1人じゃ危なっかしくて敵わんなぁ…」
手塚「?」
忍足「俺が家まで送ったるわ」
手塚「え…?だが、いいのか?いとこを迎えに行く途中だったんだろう?」
忍足「ああ、別に構わんよ。謙也は1人でも俺ん家まで来れるやろうし、俺が迎えに来たんかて、単に暇やったからや。第一…謙也を襲うような物好きがおるんやったら見てみたいわ」
手塚「…彼に失礼だぞ?」
忍足「えぇんやて。それに、手塚とおる方が楽しいし」

それから、忍足は他愛ない話をしながら手塚を家まで送っていきました。

忍足「へぇ、ここが手塚の家か。覚えとくな」
手塚「すまない。家までわざわざ送ってもらって…」
忍足「気にせんでえぇよ。俺が好きでやったことなんやし」
手塚「忍足にも、忍足のいとこにも悪いことをしてしまった」
忍足「せやから気にせんでもえぇて…でも、そんなに言うならお礼でももろうとこか」
手塚「え…?…んっ!?//」

忍足は突然手塚にキスしてしました。
唇に軽く触れるだけの、短いキス。

忍足「さっきのもえぇけど、その顔もそそるで?」
手塚「なっ……//」
忍足「本当はもっとしたいんやけど、青学は明日も部活あるんやろ?響くとあかんから今日はこのくらいにしとくわ。おやすみ。いい夢みぃや?」

忍足はそう言いましたが、あの手塚がいきなりキスなんかされてよく眠れるはずがなく…その日は結局、ほとんど寝不足でした。

リョーマ「部長、今日は一緒に帰っていいんスよね?」
不二「越前は明日遅刻しないためにも、自転車で送ってもらった方がいいんじゃない?」
リョーマ「それとこれとは関係ないっス。不二先輩こそ、菊丸先輩とでも帰ってればいいじゃないっスか」
不二「せっかくだけど、僕は手塚と一緒がいいからね」
リョーマ「俺だって部長と一緒じゃなきゃ嫌っス」
不二「我侭を言うのはよくないよ?手塚が困るでしょ?」

2人が言い争っている間に、手塚は人気のないところまで避難しました。
毎度のこととはいえ、手塚はあの2人が何故あんなにも対立しているのかが分からずに、疲れたように溜息を吐きました。
手塚は自分が原因だとは微塵も思っておらず、2人の仲が悪くて自分がそれに巻き込まれているだけだと思っているのです。

手塚「越前は、マイペースな奴だ。自分から好んで口喧嘩をしに行くとは考えにくい。むしろあいつは、テニスの試合の時意外は相手にしない者がほとんどだ。不二が関わることがそんなに気に入らないのだろうか…?それに、あの不二までもが越前に対してはあんなに攻撃的な物言いをするとはな…一度嫌ったらとことん嫌悪するところがあるからな」

手塚は2人の性格を冷静に分析し、どうすれば彼らの人間関係がうまくいくのか真剣に考えました。
1人の部外者が、すぐ後ろまで来ていることにも気づかずに…。

謙也「あんたが、手塚さん?」

手塚「?」

手塚は後ろから聞き慣れない声がしたので振り返りました。

謙也「昨日は、侑士がどうも…」
手塚「お前は…忍足の…」
謙也「せや。忍足謙也…名前、覚えてな?」
手塚「昨日はすまなかったな」
謙也「昨日?…ああ、気にしてへんよ。それより…」

謙也は手塚の顔をまじまじと見つめました。

謙也「話には聞いとったけど、侑士の言うことや。どうせ大したことない思うてたけど…」

そう言うと、謙也は手塚の顎を片手で掴んで自分の顔の傍まで持ってくると、唇を吊り上げてニヤリと笑いました。

謙也「めちゃくちゃ美人やな、あんた…」

謙也は手塚の唇をペロリとひと舐めして手塚から手を放しました。
それとほぼ同時に、手塚も思わず後ずさります。

謙也「…甘い」
手塚「なっ…何、を……//
謙也「ん?何て、味見や」
手塚「ふざけるな!//」
謙也「何や、このくらいで赤くなるやなんて聞いてへんで。あんた、天然なん?」
手塚「誰がだっ!?//」
謙也「ククッ…まぁえぇわ。あんたが気に入った。侑士には渡さんから、あんたもそのつもりでな」

忍足謙也と名乗った彼は、一体何をしに来たのだろうか…?
そんなことを考える余裕は、手塚にはありませんでした。間もなくリョーマと不二に見つかり、2人に連れて行かれるまで、手塚はそこから動けなかったのです。
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