短編

□興味が恋に変わる運命(とき)
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千歳「白石、ちょぉ見てみぃ?」
白石「何や?…月刊プロテニス?」
千歳「そや」

―…一瞬、羽でもはえとるんかと思った。この世のもんとは思えへんかった。
でも、人間に羽なんかある訳ない。
それくらい…ないものまであるように見えてまうくらい、本当に…綺麗やったんや。

千歳が開いていたページには、手塚の写真が大きく載っていました。

白石「これ…ほんまに男?」
千歳「やっぱり、白石もそう思うか?俺もや。手塚国光…正真正銘、男や。中学テニスん中でもトッププレイヤーでな、試合では無敗の実力者やねん。プロからも一目おかれとるらしいで?」
白石「…なぁ、千歳。このページ、もらってもええか?」
千歳「読んだ後やし、別に構わんで?」
  (へぇ、白石が…珍しいな)

それから白石は、部活の合間にも昼休みに千歳からもらったページを見ていました。
そこに写っていた手塚は凛とした表情で、瞳からはとても強い意志が感じられるました。
瞳だけではなく、白い肌、柔らかそうな髪、薄いピンク色の唇、折れそうなくらい細い腕、しなやかな腰…何処を見つめていても、手塚の整ったパーツは白石に時間の流れを忘れさせる程夢中にさせました。

白石(…キレーな目やな。この真っ直ぐな瞳は、一体何処を見てんのやろな。…て、テニスしてる時の写真なんやから、試合の相手に決まっとるか)

白石は苦笑しました。当然のこととは重々分かっていましたが、いくらテニスをしているからとはいえ、手塚の視線を独り占めにしている相手プレイヤーに対して、嫉妬と呼ぶに相応しい感情を抱いているからです。

遠山「白石ぃー、何見てんねん?」
白石「金太郎」
遠山「何や?えらいべっぴんさんが写ってはるなぁ。モデルか何かか?」
白石「アホ。彼は俺と同い年やで?それに男や」
遠山「ほんまにぃ!?こないなべっぴんなん、女でもそうそうおるもんやないんちゃうか?」
白石「そやな。整い過ぎや。せやかて、テニスめっちゃ強いみたいやで?しかも彼は、青学テニス部ん部長さんや。近々全国で、戦うことになるやも知れん相手になるな」
遠山「そない強いんやったら、わい戦ってみたいわぁ」
白石「お前青学に他に戦いたい奴おるゆうたやろうが?」
遠山「せやかて強いんやろ?戦いたい」
白石「駄目」
遠山「何でや?」
白石「何でも」

一方的に却下する白石に、遠山はふと思い浮かんだことをそのまま言いました。

遠山「何や、白石。ヤキモチか?」
白石「ええ加減にしなさい」
遠山「ああっ、包帯取らんといてぇな!冗談やないか!?」

遠山はああ言ったものの、図星でした。手塚の試合の相手になることで、遠山に手塚を独り占めにされるのが面白くなかったのです。

それからしばらくして、いよいよ全国大会が始まりました。

千歳「白石、見てみ?…手塚や」

千歳に言われるがまま視線を上げると、白石の瞳は手塚を捕らえました。

白石「あれが、手塚君?」

―…綺麗やな。

手塚はリョーマや不二の間で板ばさみのようになっているにも関わらず、冷静な表情を一切崩しませんでした。

遠山「何や、向こうの部長さんえらい厳しそやなぁ」
白石「そか?」
千歳「金太郎。白石は手塚にゾッコンやさかい、言うても無駄や」
遠山「げっ!白石、ああいうんがタイプなん?趣味悪ぅ」
白石「お前に言われたないわ」
千歳「まぁ、金太郎は苦手なタイプやろな」
白石「行くで?そろそろ試合や」

白石達は不動峰戦に向かいました。

リョーマ「…」
手塚「越前、どうかしたのか?」
リョーマ「あの人達、さっきからずっと部長のこと見てたっス」
手塚「何かと思えば…ちゃんと試合を見ろ」
リョーマ「無理っス。俺部長以外見えてないから」

リョーマの台詞を手塚は言い訳と取り、小さく溜息を吐きました。

四天法寺は不動峰の試合に全勝し、青学戦も終わり荷物をまとめました。

千歳「ほな、行こか」
白石「あぁ悪い。俺ちょぉ行くとこあんねん。先行っててくれてえぇよ」
千歳「分かった」

白石が千歳達と反対方向へ向かった後、丁度遠山がトイレから帰ってきました。

遠山「あれ?白石は?」

白石は手塚を探しました。このまま別れてしまえば、今度は何時会えるのか分かりません。他校の生徒で、お互い違う県に住んでいて、出会って間もないのに用事がある訳がありません。ですが、どうしてももう一度、手塚の顔が見たかったのです。

恋人、だなんて高望みはしない。だから…もう一度だけ…。

白石はそう自分に言い聞かせるかのように、手塚を探し回りました。

白石「…もう、帰ってまったんやろか?」

手塚の性格上、用事(試合)が済んだ場所(会場)に何時までも居続けるとは白石には思えず、諦めて帰ろうとしたその時、向こうから手塚がやってきました。

白石「…手塚君?」

手塚は試合が終わると鬱陶しいくらいにくっついてくるリョーマと不二から逃げてきたのでした。

手塚「白石…何をしているんだ?こんな所で」
白石「…手塚君、探しとってん」
手塚「俺を?何か用か?」
白石「あ…そやな。ちょっと、手塚君と話がしとうて」
手塚「そうか」

手塚もこの付近を歩いて、当分時間を潰すつもりでいたので、2人は傍にあったベンチに座りました。

白石「なぁ、手塚君。手塚君は、好きな人おらんの?」
手塚「好きな人…?何だ突然」
白石「手塚君、相当モテてんのやろ?手塚君の気持ち、知りとうてな」

事実、手塚は青学のアイドル的存在であり、他校からも注目の的でした。道を歩いていてもよく声をかけられますが、当の本人(恋愛やその手のことに関しては恐ろしく鈍くてこの上なく鈍感)である手塚が、そのことに気づいているはずはありませんでした。

手塚「なら、そういう白石はどうなんだ?」

手塚は白石と一対一で話をするのは初めてであり、まだ出会ったばかりなので興味のなさげな態度は避け、先に白石の意見をうかがってから答えることにしました。

白石「俺?…せやな。おるで?そいつ、あの金太郎でも認めてまうくらいのすごいべっぴんでな、初めて顔見た時から気になってんねん。はよう会いとうて会いとうてたまらんかったんやけどな、実際に会ってみると、写真に載ってたんなんかよりもずーっと綺麗やってん。せやから、ライバルも思っとった以上にぎょうさんおってな、なかなかチャンスが掴めへんかったんや。実際、2人きりになるチャンスが一度だけあったんやねんけど、会った後のことなんて何も考えてなくて、結局何もできへんままやったんや。相手も俺の話こそまじめに聞いてくれてはるものの、明らかに俺の気持ちに気づいてへんねん。そいつもテニスやってんねんけど、本当に、いいテニスプレイヤー同士としての扱いなんや。初対面も同然やし、相手から言わせれば、俺は知り合い以下やろうな。こんなん、身勝手な我が儘やいうんは十分承知してんねんけど…止まらへんのや。実際会って、性格とか、声とか、テニスとか…全部想像以上の奴やったんや。もっとテニスに強うなれば、少しは俺に振り向いてくれんのやろか?」

―今まで練習してきた以上に…。

白石がそれ以上何も言わなくなると、それまで黙って話を聴いていた手塚が口を開きました。

手塚「テニスだけが白石の取り柄という訳ではないだろう?白石の練習の成果は、今日の試合でもはっきりしたはずだ。練習は嘘を吐かない。振り返ることも時には必要だが、後ろを向いたままでは前には進めないぞ?お前は、もっと自分に自信を持っていい。その人とのことで悩んでいると言うのなら、俺にできることがあれば協力しよう」
白石「…手塚君、やっぱ何にも分かってへんわ」

もし、白石の好きな人が手塚以外の人であったなら、今の手塚の話は多少なりとも白石を励ませたかも知れません。
ですが、白石が好きなのは、他の誰でもない…手塚自身でした。

白石(…もう、考えんのは止めや)
  「手塚君」

白石は人差し指で手塚に近くにくるよう指示します。手塚は素直に、耳をより白石に近づけるため上半身を白石側に傾けます。

白石「…警戒心なさ過ぎやで?(妖笑)」
手塚「え…?」

白石は手塚の肩に腕を回すと、反対の手を手塚の顎にかけて口づけました。

手塚「んっ…!?…ふっ…//」

手塚は突然のことにうまく対応できず、抵抗しようにも身体が白石に近過ぎてなかなか身動きが取れません。
手塚は次第に力が抜け、身体が熱くなるのを感じました。
そして、全神経が麻痺してしまい、手塚の思考回路は停止しました。

どのくらい時間が経ったのか、白石はようやく手塚の唇を解放すると名残惜しそうに手塚の唇を舐めました。

手塚「っ…//何をするっ!?//」

手塚はようやく我に帰ると、白石を突き放しました。

白石「今日はこのくらいで勘弁したるわ。けど、近い内にまた会いにくるで?手塚君にな?」

白石は悪びれる様子もなく、手塚の名前のところを特に強調して言いました。

手塚「〜っ//」

手塚は顔を真っ赤にして逃げるように走っていきました。足に力が入らず、よろけそうにもなりましたが、手塚はとにかく、白石から少しでも遠くに離れることを考えました。
一方白石は、もっと手塚と居たかったですし、手塚の赤くなったところを見逃してしまうのは惜しい気もしましたが、本当に手塚に嫌われると困るので追いませんでした。

白石「…重症やな」
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